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閉塞した現実映す、不条理な沖縄映画 地元出身の大学生が監督

 映画「人魚に会える日。」の一場面

 米軍基地問題を声高に訴えるでもなく、見る人に癒やしを与えてくれるわけでもない。あえてくくるとすればダークファンタジーといえるだろうか。沖縄出身の大学生がユニークな沖縄映画「人魚に会える日。」を自主製作し、昨年春から各地で公開された。

 監督・脚本・撮影などをこなしたのは仲村颯悟(なかむら・りゅうご)さんという現在21歳の慶応大生。仲村さんには新聞の若者欄などに掲載する同世代向けのエッセーを1年間、月に1回ほどのペースで書いていただき、いろいろ考えさせられた。

 仲村さんは13歳の時に初の長編映画「やぎの冒険」を製作した。全国で劇場公開され、特に地元の沖縄では「中学生の映画監督」と注目を集めてロングラン上映になった。ヤギを食べる沖縄の伝統的な食文化が今も生きる村落と、那覇という都会で育った子どもの葛藤を描いた。中学生らしい、といったら失礼かもしれないが、素朴で分かりやすい物語だった。

 「人魚に会える日。」は、その仲村さんが大学1年の時に撮影した長編第2作。政府が進める米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設に反対していた男子高生が学校に顔を見せなくなり、クラスメートらが移設予定地を訪れるなどして原因を探ろうとする物語だ。ヒロインの女子高生は、さまざまな立場の意見や移設予定地の集落の「秘密」に触れて混乱していく。

 沖縄最大の政治課題である普天間移設をモチーフにしながら、学校に来なくなった男子生徒はゾンビのようなそぶりだし、終盤、ある決断をしたヒロインは悪魔につかれたような動きを見せる。移設先の架空の集落の住民も不気味極まりない。ホラー映画を思わせる描写もたびたび登場し、登場人物に感情移入しようとしても、突き放されたり、予想もしない展開によってするりとかわされたりする。

 どうしてこんな描き方をしたのか、最初は分からなかった。だが仲村さんにとって、沖縄の混沌とした状況や県民の複雑な思いは、不条理な物語やおどろおどろしい描写で表現するしかなかったのではないか。沖縄をユートピアととらえたがる県外の人たち、そんなふうに描きがちなこれまでの映画に異を唱えようとしたのではないかと思うようになった。政治的な文脈に絡め取られるのを避けてきた仲村さんはエッセーの最終回、この映画について「これまで誰も手を付けなかった沖縄の影と、今を生きる若者の姿を発信した」とつづった。

 20年以上も前に日米両政府が合意した普天間飛行場の返還は、県内移設を条件にしたため遅々として進まず、移設先を巡って県民は分断され、翻弄され続けてきた。この映画が公開された後も、沖縄では女性暴行殺害事件が発生して米軍属が起訴され、米軍輸送機オスプレイが沿岸部に「不時着」した。こうした中で政府は先日、普天間飛行場の移設計画地で海を埋め立てる工事に着手した。沖縄県民にとっては、ますます受け入れがたい事態へと進みつつある。

 厳しい沖縄の現実を前に、映画で何が表現できるか。仲村さんが考え抜いた結果がこの作品だろう。不幸なことだが、閉塞した現実が独創的な表現の母になることはよくある。この映画から何を感じるか、機会があればぜひご覧になっていただきたい。

 映画に関する問い合わせは、作品ホームページからメールで。(共同通信記者 伊奈淳)


(共同通信)