
『靖子の夢』光浦靖子著 幸せだと思う道へ

光浦靖子による『男子がもらって困るブローチ集』、『子供がもらって、そうでもないブローチ集』に続く第三弾、『靖子の夢』が発売された。「“ないものねだり”ブローチ集」というシリーズ完結編である本書は、光浦の憧れの地である沖縄がテーマの一冊だ。
「ばあさんになったら、沖縄で、こんなブローチを売って暮らしたいのです」。登場するブローチは、ゴーヤに三枚肉そば、マンゴー、ヤンバルクイナにイリオモテヤマネコ。海の生き物にシーサー、さらには具志堅用高にパパイヤ鈴木まで。やたらとクオリティの高いブローチの数々が並ぶ。
そして作品と作品の合間に掲載されているエッセーには、沖縄への思いをしたためている。
「沖縄の人はみんな優し」く、「沖縄の海は心の澱を流してくれる」から、いつか住んでみたいと語る光浦。しかしその夢に対して「薄っぺらい」「つまらない」という周囲からの反応があり、それを気にしているように見える。
写真も原稿もブローチも、決して暗くはないのに、本書の佇まいはどこか悲しげで、それが妙に引っかかる。届かないとわかってる夢に、ブローチを握りしめた手を伸ばし、叶わない夢を再現して『なーんちゃって』と笑う。その行為はまるで、「どうせ着ることはないから」と、ひとりでウェディングドレスを身に付け写真を撮る女性のようだ。
別に、夢は全部叶えるべきだとは思わないし、叶えずに大切にしまっておいくのも自由だとは思う。でもなんだろう、「なーんちゃって」と笑っているようで「私なんかが叶えられるはずがない」という諦念と自嘲が、ひんやりと全体に流れていて、なんだか切ない。笑えない。
テレビ的っていうのがどういうことなのか、テレビの人じゃないからわからないけど、でも光浦が「『沖縄に住みたい』はつまらない」っていうのは、すごくテレビの呪縛を感じる。ラテ欄に「▽光浦沖縄へ移住」ってあったら、まぁ、そんなに目を引くものじゃなさそうだし。そこに囚われるのが芸人の宿命なのかもしれないけど、幸せであってほしいなぁ、幸せだと思う場所に、誰にはばかられることなく進んで欲しいなぁと思った。
(スイッチ・パブリッシング 1500円+税)=アリー・マントワネット
(共同通信)