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『苦汁100%』尾崎世界観著 恥ずかしさもいとおしい

 

 ミュージシャンが小説を書き、さらにエッセーを書くとなったら、多くの読者の流れは(1)すでに音楽を聴いている(2)その上で本を読む……というのが自然だと思います。しかし今回読んだのは、ほとんどちゃんと聴いたことのないロックバンドのボーカルのエッセー。聴いたことがあるのは、そのモノマネを清水ミチコがやっていて、それだけ。

 なのに本書を手にした理由はいくつかあって、清水ミチコが好きなのと、「世界観」という名前が強烈なのと、書店で平積みされていた彼の小説『祐介』が、手に取っていないものの気にはなっていたから。それと他人の日記を読むのが好きだから。

 クリープハイプのボーカル、尾崎世界観による初のエッセー。2016年7月から2017年2月までの日記を一冊にまとめたものだ。

 この尾崎世界観という男、許せないことが多くて、納得できないことを流すことができなくて、真正面からぶつかっている。時にラーメン屋の店主に、時にライブに来た客に、バンドのメンバーにぶつかっていってる。でもその分楽しかった夜もいっぱいあって、激しい人なのねと思いながら読み進める。

 カレーが好物らしく、日記の中にもカレー屋に行ったという記述が多いのだが、ある日訪れた店は、店主がすでに来ていた常連と思しき客と楽しそうに話していたらしく、それだけで居心地が悪かったそう。「飲み物サービスしますよ」とまで話してる。あぁ、おいしくないと思いながら会計。すると店主、意外とこちらにも愛想が良い。スタンプカードもくれて、さらには笑顔も良かった。うん、おいしかった。……にまで印象が変わる、その人間くささが憎めない(いや別に憎もうとしたことはないけど)。

 感情豊かで日々笑ったりケンカふっかけたりと忙しそうだが、「読み返して恥ずかしいのは、今月もしっかり生きた証拠」だと尾崎は語る。うむ、そうだ。私の恥の多い人生も、愛することができそうだ。ありがとう尾崎世界観!というわけでクリープハイプを聴いてみました(やっと)。お……おう。本と印象違いすぎて固まること数秒。それもまた人生。

(文藝春秋 1200円+税)=アリー・マントワネット

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(共同通信)