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『モモコとうさぎ』大島真寿美著 生きることに許可は要らない

 

 就職活動がうまく行かなかった女子の物語だ。離婚と再婚を繰り返す母のおかげで、複数の父を持つ主人公「モモコ」。そのたびに起きる環境の激変を、彼女なりの順応力で精一杯乗り切ってきた。けれどここへ来て、つまづいている。内定をもらえない。かつて懸命に働いてきたバイト先にさえ居続けることができない。大人が皆、普通に獲得している「居場所」が彼女には許されない。だから自分の部屋にこもる。ちくちくちくちく、縫い物に打ち込む。傍らには、うさぎのぬいぐるみたち。彼らはとても客観的に、彼女の現在を観察している。でもモモコにはそれが聞こえない。

 やがて彼女は、居場所を求めて家出をする。そしていろいろな人に会う。この間まで同じ場所にいたはずなのに、妙に社会人然としてしまった友人。ほんの少し居候するうちに、友はどんどん疲弊していき、モモコは社会人生活がいかにハードか思い知る。彼氏との結婚を人生目標にしている友人。モモコは結婚への道がどれだけ女の気を尖らせるか思い知る。

 モモコと一緒に、苦難の子ども時代を過ごしたはずの兄は、就職して独身寮に入って、すっかりマッチョな正論を振りかざすようになっている。親たちの過去についてを、モモコは兄から知らされる。親たちもまた、それぞれの場所で、生きもがく日々があった。

 自分とは違う人。自分とは違う生き方。それらを目の当たりにして、モモコは立ち尽くす。理解ができない。私は、そうはなれない。その確信がモモコを貫く。うさぎは、黒かった目を赤くして、彼女を見ている。

 やがて、モモコは旅に出る。幼い頃、家族で暮らした海辺の町へ。そこで初めて、あなたを助けたいと、困ったらいつでもいらっしゃいと、言ってくれる人に出会う。

 けれどそれを、モモコは、自分の意志で拒むのである。

 モモコは働く。その町に、住み込みで。一日中汚物にまみれるハードな仕事だ。誰とも目を合わせない、誰とも言葉を交わさない。それでも、仕事を覚えていく彼女。

 少しずつ彼女は変わっていく。職場を追われ、実の父が眠る墓へ向かう。当然ながら親類縁者に会い、モモコの知らなかった一家のこれまでを洪水のように聞かされる。

 そこからのモモコがたどり着く場所は、少しずつ「居場所感」を増してゆく。やるべきことがある。それがモモコの特技だったりする。仕事の結果が目に見えてわかる。それを喜んでくれる人がいる。生きることに許可など要らない。それをモモコは、身体で覚えてゆく。

 働くために、試験がある世界。試験に受かって、「ここで働いてもよし」との許可が出て、初めて働くことを許される。そのことに汲々としていたモモコが、人に喜ばれ、持ち前の特技を発揮しては、みんなと一緒に笑っている。それはとんでもない奇跡である。それと同時に、ごくありふれた日常茶飯事でもあるのだ。相反するふたつが、涼しい顔して、そこに共存している。

 終盤、モモコはケンカしたわけでも、クビになったわけでもなく、自分の足でその「居場所」を離れる。

 ここから先の彼女の行く手には、もちろん、数多の苦労があるだろう。けれど読者は、頼もしい思いで彼女を見つめる。モモコは、他の誰でもない、モモコ自身として、生きていくのだ。

(KADOKAWA 1500円+税)=小川志津子

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(共同通信)