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『猫のお告げは樹の下で』青山美智子著 顔を上げれば、そこに猫がいる

 

 悩める人々が主人公の、短編集だ。それぞれに共通しているのは、一点。悩みが臨界点に至ったとき、彼らはふと、小さな神社に行き着く。そこには猫がいて、それぞれの主人公の目をまっすぐ見て、「タラヨウ」の樹の下を走り出す。そして、ひらひらと舞い落ちてくる1枚の葉。そこには四文字のカタカナが記されている。主人公たちのこれからを示唆する、幸運のキーワードが。

 主人公たちの悩みは様々だ。失恋したばかりの美容師。中学生の娘から嫌われたくない父親。自分はいったい何がしたいのかさっぱりわからない就活生。悶々としていた彼らが、「ミクジ」という名の猫からお告げ(の葉っぱ)を受け取り、やがてひとつの気付きに行きあたる。

 興味深いのは、その葉っぱを受け取った途端に、事態が好転するわけではまったくないことだ。けれど、後々、必ず「ハッ!」とする瞬間が訪れる。景色がガラリと変わって見える。

 つまり、世界は何ひとつ、変化してなどいないのだ。変化するのは、自分の視点。自分ひとりが変わるだけで、世界はまるごと、色合いを変える。

 胸に響いたのは、「タネマキ」と題された一編だ。息子の妻と、その娘と共に暮らす老人。プラモデルが大好きで、若い頃からそれを作り、売ることに心血を注いできた。やがて年老いて、店を閉めるとき、妻に離婚を切り出される。あなたはプラモデルにしか興味がないのでしょう?と。

 けれど小さい頃、彼のプラモデル店で、その手仕事に魅入られていた人物が現れる。そして彼を巻き込んだ、驚きの人生プランを打ち明ける。彼女は言う。あなたがこれまでしてきたことは、「タネマキ」であったのだと。

 自分はすべてを失ってしまった、為す術など、まるでなかった。そうやって肩を落とす者を、猫の「ミクジ」は呼び止める。宝物は、すでに、とっくにあなたの手の中にある。誰の手の中にも、同じように宝物はある。すべては、それに気づくことから始まる。

 登場人物たちの悩みは、実に人それぞれである。これを読む多くの人が、「これは、私だ」と思うのだろう。教室で、給食が食べられない少年。漫画家になる夢を捨てきれずに、もやもやを抱え続ける主婦。彼らが描く幸せへのグラデーションは、読み手にも活用できそうなヒントばかり。ある意味、自己啓発本でもあるように思う。

 最後に収められた「タマタマ」の主人公は、それまでの鬱々と悩み惑う主人公たちとは異なる空気感を醸している。45歳の有名占い師。名前も顔も知れて、テレビ出演や講演の依頼が絶えず、絶頂期にある(かのように見える)彼女の前に、猫が現れる。その後、彼女が選びとる道こそが、すべての読者へのメッセージだ。

(宝島社 1300円+税)=小川志津子

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(共同通信)