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『ほどなく、お別れです』長月天音著 逝く者を送り、生きる者は成長する

 

 主人公の美空は、葬儀場「坂東会館」のホールスタッフだ。大学4年になり、それなりに就活をしているけれど、そっちはまるで実らない。ある日、かつて「坂東会館」に所属していた葬祭ディレクターの漆原に出会う。

 この男との邂逅が、美空の人生を大きく変える。「大学を出たらバイトを辞めて就職するものだ」という思い込みの方程式が、根底からひっくり返る。美空は、この男のもとで、人を送る仕事に本腰を入れて取り組むことに決めるのだ。

 彼女の心を大きく動かしたのは、亡き姉の存在によるところが大きい。美空が生まれる前日に亡くなった姉は、幼い姿のまま、いつも美空のそばにいて、美空もそのことを知りながら生きていた。そう、美空は、見えないものが見えてしまう「体質」だったのだ。

 通夜の席で、亡き人の姿を見る。亡き人の思いを聞き取る。大いに心を重ね、大いに動揺する。そんな美空の姿に、漆原は何かを直感する。ワケアリの現場の仕事に、美空を抜擢するようになる。へとへとで帰宅する美空。けれど「心を重ねる」ことを、彼女はやめない。サボらない。

 自分が果たすべきミッションを知る時、人は強い。そのミッションを心の内でつぶやくと、背筋が伸び、心が奮い立つ。そんな登場人物の姿は、読み手の心をも奮い立たせる。そうだ、「仕事」って本来、こういうものであるはずだ。自分の時間だけを切り売りして、お金を得るだけの行為ではない。

 美空は、自分の心ごと、仕事に注ぐ。残された者が、亡き人に別れを告げ、明日を生きていけるように。葬儀は、旅立ちのセレモニーだ。死者も生者も、両方にとっての。

 終盤、姉の死と、祖母の死が描かれる。美空の祖母が死の床にあると、知った時の漆原の行動が優しい。美空に寄り添っていた姉も、その時ばかりは、祖母に寄り添う。いちいちみんな、優しいなあと思う。誰もが迎えるその日のために、私たちはどう生きようか。優しくありたい。ただ、優しくありたいと願うのだ。

(小学館 1300円+税)=小川志津子

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(共同通信)








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