社会

コアラの「アーク父ちゃん」もう一踏ん張り 英国で繁殖に協力、天王寺動物園から出発

お気に入りのユーカリの木を目指して歩くアーク=大阪市天王寺区で2019年10月2日午前9時17分、野田樹撮影

 大阪市天王寺動物園(大阪市天王寺区)でただ1頭飼育されてきた雄のコアラ「アーク」(12歳)が、過去に3頭の子をもうけた実績を買われて英国の動物園に貸し出されることになり、10日早朝に園を出発した。貸出期間は10年で、現地で寿命(平均約15~20歳)を迎える可能性が高い。園は今後、コアラ飼育の中止を決めており、長く付き添ってきた飼育員は期待と寂しさを抱えながら長旅に同行する。

 アークは2008年6月、豪州のメルボルン動物園から来た。「淡路ファームパークイングランドの丘」(兵庫県南あわじ市)に一時貸し出されていた期間も含め、2頭の雌との間に3頭の子どもが生まれた。飼育員から付けられた愛称は「アーク父ちゃん」。16年6月から1頭だけになったが、高さ10メートルもあるユーカリの大木の上でくつろぐ様子などがネットで公開され、園随一の人気者となった。

 9月28日に園であったお別れ会には、想定を上回る約600人が詰め掛けた。11年の着任以来、アークの担当飼育員だった辻本英樹さん(40)はマイクを握り「最後にこれだけ多くの人に見守られ、アークも幸せだ」と目を赤く腫らした。

 会の終了後には、アークが高齢であることなどを理由に貸し出しに反対する人たちが牧慎一郎園長(48)に抗議する一幕もあった。

 コアラを一年中、屋外で展示する園の手法は国内で珍しかった。これはアークが15年12月に淡路から戻った後、自然に近い形で展示しようと、辻本さんらがアークを徐々に屋外環境に慣らした成果だ。「コアラは音に敏感だが、アークは順応性が高かった。おかげで豪州の自然と同じように暮らす姿を見せることができた」。アークは木々の間をジャンプする生き生きとした姿を見せた。「本当ならずっと見ていたい」と辻本さんは懐かしむ。

 しかし園は15年、コアラ飼育からの撤退を決めた。理由の一つは繁殖の難しさだ。国内には9月末現在、8動物園で計48頭が飼育されている。コアラは豪州の南部に生息する南方系と、中北部に生息する北方系に分類される。アークと同じ毛が長くて体の大きな南方系は淡路の5頭だけで、高齢個体も多かった。

 加えて、餌のユーカリ代も大きな負担だった。園によると、昨年度のユーカリの管理委託費は約3200万円と、園全体の餌代(8359万円)の約4割。台風などで一度に全滅しないよう栽培地の分散が必要で、コストがかかったという。牧園長は「(コアラ展示の維持は)いばらの道だった」と語る。

 アークは16年、一緒に飼育されていた雄の「そら」(当時3歳)と共に、香港の動物園に貸し出す話が浮上したこともあった。しかしコアラの繁殖能力は10歳前後が限界とされ、若いそらだけが引き取られた。園はアークを最期まで飼育する方針を決め、余生を過ごす新コアラ舎の建設も計画していた。

 ところが今春、英ウィルトシャー州のロングリート・サファリパークから借り受けの打診が舞い込んだ。牧園長は「うちにいても訪れない繁殖のチャンス。すごくいい話だと感じた」。同パークには若い雌が多い上、コアラの展示施設が3月にオープンしたばかり。本場の南オーストラリア州と連携し、欧州初の南方系の飼育拠点を目指していることも、アークを送り出す方針転換を後押しした。

 10日午前の関西国際空港発の便で英国に向かい、空路は約12時間。神経質なコアラの心身に大きな負担がかかる心配もある。そらは香港に貸し出された約1年後に死んだ。アークがストレスを感じないように、辻本さんらは輸送用の木箱を早くから屋内展示室に置き、においになじませるなど細心の注意を払った。

 移送には辻本さんが同行し、到着後数日間は滞在して順応ぶりを見守る。辻本さんは「アークが旅立つのは切ないし、コアラ飼育が終わるのは悔しい思いもある。でもアークが安定するまで、しっかり見守る」と話した。【野田樹】


(毎日新聞)









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