社会

売り上げ激減でも臨時ボーナス「つぶれても人さえいれば再建できる」経営者の思い

従業員への臨時ボーナス支給についてウェブ会議システムで語る須崎屋の伊藤剛社長=2020年4月17日、久野洋撮影

 新型コロナウイルス感染拡大で自社の売り上げが激減する中、従業員に臨時ボーナスや金一封を支給する中小企業がある。苦しい時だからこそ、従業員を守ろうと踏ん張る社長たちを取材した。

 「満足のいく額ではないが、当面の生活のために使ってください」。長崎県・島原半島の先端に位置する南島原市にある創業153年のカステラ店「須崎屋」。伊藤剛社長(52)は3月25日の朝礼で、従業員25人に5万円が入った封筒を手渡した。働き出してまもない学生アルバイトらにも1万~3万円を渡した。

 卵の黄身の割合を増やした高級品「五三焼カステラ」が看板商品の須崎屋は、東京の百貨店や長崎空港、ハウステンボスなどにカステラを出荷していた。しかし、新型コロナの感染拡大を受けた納入先の臨時休業などで売り上げは半減。2月から製造量を減らし、女性のパートが大半を占める従業員の中には、収入が3割減った人もいた。

 従業員には子供の学費を稼いでいる母親や、家計を支えている高齢者もいる。伊藤社長は勤務表を見つめながら、従業員の生活に思いを巡らせたという。国の家計支援策を報じるニュースを見て「5月になれば、国民に現金が支給されるだろう。それまで従業員の生活を支えるお金が必要だ」と考えた。3月に金融機関から10カ月分の運転資金の融資を受け、その中から130万円を臨時ボーナスに充てた。

 ボーナス支給後、政府は家計支援策を、収入が減った世帯主への30万円支給から、国民1人につき一律10万円の支給に変更した。伊藤社長は「当初の支援策は世帯主への支給で、対象外の従業員も多かった。差をどう埋めようかと悩んでいたので、全員がもらえることになってほっとした」と話す。

 1867年創業の須崎屋は戦争や災害も経験しており、6代目の伊藤社長は祖父や曽祖父から「たとえ店がつぶれても、人さえいれば再建できる」と聞かされてきた。手焼きのカステラは職人の熟練の技に支えられており、伊藤社長も従業員第一の経営を心がけてきた。

 うれしい知らせもあった。須崎屋の臨時ボーナス支給を知った旧知の大手スーパー社長が「経営者として賛同します。うちもやりましょう」と連絡してきた。伊藤社長は「従業員を大切にする経営の輪が広がるといい」と語る。

 ただ、新型コロナの収束は読めない。金融機関から当面の運転資金は借りたが「この赤字が1年以上続けば厳しい」と伊藤社長。売り上げを増やすため、新商品の開発や販路の拡大に力を注ぐ。

 ◇臨時休業決意でも従業員に支援金

 木造の注文住宅を手がける福岡市の「福岡工務店」も3月2日、従業員34人に「コロナ予防対策支援金」を手渡した。1人1万円で、家庭のある社員は家族1人につき1万円を増額。同社専属で働く職人にも3万円を支給した。

 阿久津岳生社長(42)は「新型コロナの不安を感じながら働いていた従業員や職人に、感謝の気持ちを示したかった」。マスクや消毒液の購入、家族と家で過ごすための費用に充ててほしいと伝えた。

 同社は国の緊急事態宣言と合わせて、4月8日~5月6日を臨時休業とし、建築現場も閉鎖した。建築業は休業を要請されていないが、阿久津社長は臨時休業に踏み切った理由について「休業しないと、お客様のために働く従業員が出てくる。従業員に不安を感じさせながら働いてもらうのは、経営者として無責任だと思った」と話す。

 休業すると、住宅の引き渡しの延期で売り上げが激減する一方、建材費など毎月数千万円の支払いが迫る。4月上旬、休業の意向を幹部に伝えると驚かれたが、阿久津社長の決意は揺らがなかった。

 当面は手元資金や不動産売却でしのぎ、従業員の給料をなるべく全額支払い続けるつもりだ。阿久津社長は「どんなに困難でも白旗は揚げない。事業を存続する」と自身に言い聞かせている。【久野洋】


(毎日新聞)









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