経済

2週間前通知で合意 米差し止め訴訟

東芝が抱える四つの裁判

 経営再建中の東芝が進める半導体子会社「東芝メモリ」の売却を巡り、協業先の米半導体大手ウエスタン・デジタル(WD)が売却差し止めを求めた訴訟の審問が14日(日本時間15日)、米カリフォルニア州上級裁判所であった。両者は「東芝が売却完了の2週間前にWDに通知する」ことで合意し、東芝にとってはWDによる売却差し止めのリスクが高まった。東芝が目指す来年3月末までの売却完了に新たなハードルとなりそうだ。【古屋敷尚子、和田憲二】

 WDは「自社の同意がなければ売却できない」として提訴していたが、上級裁は同日、売却差し止め自体に判断は出さず、28日の次回審問以降に先送りした。東芝と優先交渉中の日米韓連合を主導する産業革新機構の幹部は14日の審問を見極める考えを示していただけに、6月末にまとまるはずだった交渉がさらに長期化する可能性が出ている。

 一方、上級裁の判事は同日、「売却完了2週間前に通知」を提案し、これを両者が受け入れ合意した。WD関係者は合意について、「2週間あれば法的措置をとれる」と指摘。東芝が日米韓連合と最終契約を結んで売却完了の見通しが立った場合、再び裁判所に「仲裁裁判所の結論が出るまで売却差し止め」を求め提訴する方針だ。

 両者は最終的には、別途係争中の国際的な紛争を解決する国際仲裁裁判所の判断を待つ考えだが、その結論が出るには1〜2年かかる見通し。WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)は今回の合意について「仲裁裁の判断までWDの権利を守るという目的にかなう」と評価する声明を出した。

 米国の法制度に詳しい瓜生・糸賀法律事務所の早川吉尚弁護士は「売却完了の通知後は緊急性があるため、2週間あれば裁判の結論が出る」との見方を示す一方、「判事は28日まで両者に話し合う猶予を与えたのではないか」と推測する。

 東芝は来年3月末までに売却を完了して2兆円程度を調達することで、2年連続の債務超過を解消して上場廃止を回避する方針。最終契約後の各国の独占禁止法審査に時間を要するため、東芝は「(日米韓連合との)最終契約を締結すべく交渉を継続し、早期合意を目指す」と契約を急ぐ考えを示した。

 だが、国際企業法務が専門の遠藤誠弁護士(BLJ法律事務所代表)は「裁判所が両者を和解させる策を探っている印象を受ける。東芝が日米韓連合と今、最終契約を結ぶことはリスクが高く得策ではない」と指摘している。

 優先交渉中の日米韓連合との最終契約が遅れている背景には、連合に名を連ねる韓国半導体大手のSKハイニックスが将来的に東芝メモリの議決権取得を求め、東芝が難色を示したこともある。東芝幹部が15日夜、「SKは融資の参加でいいと納得した」と話すなど、SKが態度を軟化させたとの見方はあるが、WDとの係争を抱える中、日米韓連合への売却は困難さを増している。

 ◇4件で係争中

 東芝とWDは4件の訴訟で係争中だ。うち3件は、第三者への東芝メモリ売却を止めようとWDが相次いで起こした。最初は、WDが5月14日に国際商業会議所(ICC)の仲裁裁判所に申し立てた売却差し止め請求だ。裁定が出るまでに通常1〜2年かかる。

 仲裁裁の裁定には国際的に判決と同じような強制力があり、覆らない。両者にとって仲裁裁の裁定が「本命」(東芝関係者)だ。WDの主張が認められれば、その時点で売却が完了していても無効と判断される可能性がある。その場合は「東芝メモリの出資者への返済債務が生じ、東芝の体力次第では資金繰りが相当厳しくなる」(BLJ法律事務所代表の遠藤誠弁護士)。

 二つ目は6月14日にWDが米カリフォルニア州上級裁判所に申し立てたもので、仲裁裁の判断が出るまでの東芝メモリ売却の差し止めを求めている。

 三つ目は、東芝が6月28日に製品開発の機密情報にWDが接触できないよう通信を遮断したのを受け、WDがその解除を求めて7月6日に同上級裁に起こした請求。同上級裁は11日、「遮断を続ければWD側が深刻な損害を被る」として28日の審問まで解除するよう東芝に命じた。東芝は決定を不服として即時抗告する一方、一部解除に応じた。

 一方、東芝も6月28日、WDを相手取り妨害行為を差し止める仮処分と1200億円の損害賠償を求め東京地裁に提訴している。【竹地広憲】


(毎日新聞)