社会

8日閉館 館長「みなさんの心に」

ゴーギャンの代表作の前で対談する名古屋ボストン美術館の馬場駿吉館長(左)とボストン美術館のマルコム・ロジャース館長=名古屋市中区金山町で、2009年4月16日撮影

 米国が誇るボストン美術館のコレクションを展示してきた「名古屋ボストン美術館」(名古屋市中区)が8日閉館する。開業20年を締めくくる最終展「ハピネス〜明日の幸せを求めて」には8万人超が来館した。2006年から館長を務める馬場駿吉さん(85)=同市千種区=は「美術館は消えるが、作品の記憶はみなさんの心に残る」と感慨もひとしおだ。

 「夢に夢重ねて二十年の秋」。会場出口には、馬場館長の詠んだ俳句が掲げられている。「展覧会一つ一つを夢として実現させてきた。秋は収穫の季節であり、終末に向けた気配も重ねた」と句に込めた思いを語る。米国ボストン美術館から日米交流の証しとして収蔵したいと打診があり、「Dreams upon dreams, Twenty years on, Autumn」と英訳され、プレートにして本国で収蔵されることになった。

 愛知県一宮市の中学時代から俳句を詠み、俳人としても名高い。1964年に刊行した最初の句集「断面」には、銅版画家・駒井哲郎(20〜76年)の「風景」をあしらった。

 名古屋市立大医学部を57年に卒業し、前半生は耳鼻咽喉(いんこう)科医として活躍。耳介(じかい)形成手術の第一人者だった。1万人に1人の割合で耳が欠けて生まれてくる子のため、肋骨(ろっこつ)を使って再建する手術法を渡米して確立し、約400人の耳を生んだ。91年から市立大病院長を4年務め、日本耳鼻咽喉科学会の名誉会員でもある。

 美術との出合いは、61年に同県美術館の貸しギャラリーで鑑賞した駒井の銅版画展だ。馬場館長はその時の感動をこう語る。「小さな画面に宇宙が封じ込められ、五・七・五の世界最短の定型詩である俳句と相通じた」

 半年後、名古屋市内の画廊で駒井の「束の間の幻影」を購入。それ以来、画廊巡りを重ねて多くの現代美術作家と親交を深め、美術評論家として著作も多い。「ハピネス」展では、馬場館長のコレクション5点も出展されている。

 63回を数えた展覧会で最も印象深いのは、09年開催の「ゴーギャン展」だ。大作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を日本で初公開できた。複製画が同館の入る金山南ビル1階壁面に掛かる。馬場館長は「名古屋・金山の地がボストンの名品を橋渡しする拠点になった。入館者の感動や記憶が地層に染みこんだ」と話す。【山田泰生】


(毎日新聞)