社会

真新しい建物に魚のにおい「一夜にして築地に」

豊洲市場の水産仲卸売場で、顧客の男性に笑顔で頭を下げる「山治」の山崎康弘社長(中央)=東京都江東区で2018年10月11日午前7時51分、竹内紀臣撮影

 魚のにおいが漂い、小型運搬車のターレが無秩序に行き交う。陳列棚は店舗前の通路にせり出すように置かれている。そこら中に、発泡スチロールの山、山、山……。11日に開場した豊洲市場。83年の歴史を刻んだ開放的な築地市場と対照的に、大型倉庫のような真新しい建物が並ぶ。でも足を一歩踏み入れると、そこにはいつもの魚河岸の空気が流れていた。

 「ここも一夜にして築地市場になったな」。午前5時前、すしネタなどを専門とする仲卸の社長(78)がつぶやいた。「車に乗って出てきたら、うっかり有明の方まで行っちゃってね。パトカーをとめて道を聞いたよ」。移転前は「あんなところ行きたくないよ」とこぼしていたが、「来てみれば、思ったほど悪くないね」とほっとした表情を見せた。

 不慣れな場所だけに、現場では混乱もあった。関東の各市場への荷を積み込んで産地を出たトラックは、豊洲市場の水産卸売場棟1階で豊洲向けの荷を降ろした後、4階の「転配送センター」で異なる市場へ行くトラックに荷を移す。しかし、1階への誘導がうまくいかず、到着したほとんどのトラックが直接4階へ流れて滞留。4階から1階へ荷を下ろそうとする人たちでエレベーターが混雑し、予定通りの時間帯に卸売場に並ばない魚も多かった。築地で在庫を処分してきた仲卸たちは、魚をかき集めようと未明から卸売場に殺到した。

 マグロ仲卸「鈴与」の生田与克(よしかつ)社長(56)は「戸惑いはあるけど、大した混乱はないな。みんなプロだから何とかできちゃってる」と、あっけらかんとした表情。屋内型の豊洲は、築地のように風雨にさらされることもない。「労働環境は格段によくなった。でこぼこの築地と違ってターレの荷物も落ちない。逆にスピードが出るようになって配達もスムーズになったよ」と笑顔を見せた。

 塩ザケなどの塩干物や乾物を扱う仲卸「オオハシ商店」の社長、伊藤淳一さん(65)は、新調した長靴で真新しいステンレス製の帳場に座った。前夜は期待と不安であまり眠れなかった。「どうにも慣れないねえ」と落ち着かない様子を見せながらも、「市場の箱が変わったって、中で生きる河岸の人は変わらない。文句は言いつつ、最終的には結果オーライの世界だ。10日もたてば慣れるよ」と早速、手際よく伝票を整理していた。

 仲卸売場には午前6時ごろから、鮮魚店や料理店の人たちが買い出しに訪れた。入り口の店舗配置図で目当ての店の場所を確認し、地図を片手に店番号や看板をきょろきょろと探しながら歩く姿が目立った。

 銀座で40年以上続くすし店「魚て津」の店主、中村撚彦(よりひこ)さん(72)は、生まれも育ちも築地。これまでは市場まで自転車で10分程度だったが、この日からバスに切り替えた。「やっぱり築地が好きだったし、豊洲には来たくなかったのが本音」と漏らす。渋滞に巻き込まれて到着が遅れ、行きつけの仲卸店舗もなかなか見つからない。「売り場で迷子の状態。これから毎日が思いやられるよ」とため息をついた。

 一方、青果棟では、仲卸「築地くしや」社長、杉本雅弘さん(58)が「お客さんの入りはいつもの半分。(施設についての)東京都のアナウンスが悪い」と不満を漏らした。仲卸「定松」の社長、牧泰利さん(53)は「青果は1階の平面にまとまっていて動きやすいね」と好印象を持ったようだった。【市川明代、森健太郎、川村咲平】


(毎日新聞)