経済

半導体材料輸出規制 動き鈍い韓国 日本の「本気度」を突き付ける

日韓関係を巡る経緯

 日本政府は、日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国最高裁判決への事実上の対抗措置として、韓国向け半導体部品などの輸出規制に踏み切った。日本側が節目と捉えていた主要20カ国・地域(G20)首脳会議までに韓国側は有効な対応策を示さず、日本の「本気度」を突き付ける必要があると判断した模様だ。日韓の政治的対立は両国の経済に水を差しかねない状況にまで発展した。

 西村康稔官房副長官は1日の記者会見で「安全保障を目的とした輸出管理制度の適切な運営に必要な見直しだ」と述べ、元徴用工問題に関する「対抗措置」ではないと強調した。韓国側が訴訟で差し押さえた日本企業の資産を売却した場合、日本は対抗措置に踏み切る構えだが、今回の規制はそれとは別の措置であり、国際ルールにのっとった輸出管理の見直しに過ぎない、との理屈だ。

 だが、政府は昨年10月に日本企業が賠償命令を受けた韓国最高裁判決の直後から、半導体材料の輸出制限や、安全保障上の友好国である「ホワイト国」から韓国を除外する検討を進めていた。今年2月の自民党外交部会では外務省幹部がそれらの措置について「経済産業省とも協議して検討する」と明言しており、元徴用工問題を念頭においた措置であるのは間違いない。

 ただ、実際に発動すれば、日韓両国の経済に悪影響を与え、日本政府がG20で訴えた「自由貿易の推進」との矛盾を指摘されかねない。そこで政府はG20までは韓国政府の対応を待つ方針を決定。河野太郎外相は5月、韓国の康京和(カンギョンファ)外相と会談し「G20までに対応策を示してほしい」と最後通告を突き付け、韓国の軟化を促した。

 それでも韓国の動きは鈍かった。G20直前、韓国側は日本企業にも元徴用工への慰謝料の一部を負担させる案を示したが、日本政府は「賠償問題を解決した『請求権協定』違反の是正にならない」と拒否。韓国側が要請した首脳会談にも応じず、G20閉幕を待って輸出規制を公表した。

 今回の措置の背景には政府の韓国への不信感がある。韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題▽元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」の一方的な解散決定▽国際観艦式での自衛艦旗掲揚への反対▽国会議長による天皇陛下への謝罪要求――など韓国側に起因する問題が続出。経産省幹部は「信頼関係は著しく損なわれた」と解説する。

 元徴用工問題では、日本側は1月に日韓請求権協定に基づく政府間協議、5月には仲裁委員会の設置を申し入れたが、韓国側は対応を先延ばしにした。日本企業の資産の売却(現金化)が迫り、日本政府関係者は「実害が生じる前に動く必要があった」と解説する。

 本丸の「対抗措置」として、日本政府は関税引き上げ▽送金規制▽査証の発給の厳格化――なども検討。今回の輸出制限は対抗措置発動の可能性が高いことを示し、韓国に揺さぶりをかける思惑が透ける。

 ただ、韓国が元徴用工問題で譲歩するかどうかは未知数だ。日本研究専攻のソウル大の朴喆熙(パクチョルヒ)教授は2016年の中国による経済制裁発動により韓国での中国ブームが冷え込んだ経緯を挙げ「日韓協力で最も努力してきた半導体分野を真っ先に傷つけた。国民感情的にも日本への警戒を強めることになり、逆効果だろう」と指摘した。【秋山信一】

 ◇日韓双方の経済に大きな打撃のおそれも

 日本政府による韓国向け輸出製品の手続き厳格化は、両国の経済に大きな影響を及ぼしかねない。日本の措置について韓国メディアは1日、一斉に元徴用工訴訟最高裁判決に対する「事実上の報復措置」と報道した。

 対象となった感光剤と高純度フッ化水素は半導体製造に不可欠な素材だ。供給が不安定化すれば、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国経済をけん引する大手半導体企業への打撃は避けられない。日韓協力を推進してきた韓国経済団体の関係者は「最も恐れていたカードが最初に切られた」と話し、「報復合戦になれば日韓双方の経済界にとって損失が大きい」と懸念する。

 一方、短期的に韓国の半導体業界が損害を受けたとしても、日本依存を脱却できれば、韓国の競争力は中長期的に高まる可能性があるとの見方もある。KTB投資証券の金楊裁(キムヤンジェ)研究員は「半導体業界は供給過多の状況だったので、構造を変えるチャンス。今から国産化を強化すれば、3~5年後には日本依存の体質を改善できる可能性がある」と述べた。

 日本企業からも影響を懸念する声が出ている。半導体の洗浄に使うフッ化水素を手がけるステラケミファ(大阪市)は、同製品の年間売上高が約200億円で世界シェア7割。このうち6割を輸出し、韓国向けが多くを占める。広報担当者は「突然の決定に当惑している。輸出審査にどれだけ時間がかかるようになるか、現時点で業績への影響は分からない」と嘆く。このほか、半導体の基板に塗る感光剤のレジストを製造する信越化学工業は、韓国向け輸出量や業績への影響について社内で精査を開始した。

 経産省は、今回対象とする3品目以外でも軍事転用可能な電子部品の輸出制限措置を検討するなど、韓国側を引き続きけん制している。日本商工会議所の三村明夫会頭は1日、記者団に対し、こう着状態の日韓関係の打開につながる可能性に期待を寄せる一方、「対抗措置の掛け合いになれば非常に困る」と語った。

 韓国経済や日韓貿易に詳しい日本総合研究所の向山英彦・上席主任研究員は「3品目は、日本企業のシェアがきわめて高く、最少の手段で韓国企業への最大の効果を狙ったものといえる」と分析。そのうえで、「輸出自体を禁止するわけではなく、審査にどれだけ時間をかけるのか、日本政府の裁量の余地がある。韓国政府の対応が焦点となるが、今後両国が相次いで対抗措置を取れば、部品調達網の混乱も含めて日韓経済双方に大きな打撃を与えかねない」と指摘する。【鳴海崇、道永竜命、ソウル堀山明子】

 ◇韓国、WTOへの提訴などの対抗措置検討

 日本政府は今回の韓国に対する半導体材料の輸出管理強化について、「安全保障を目的とした必要な見直し」との立場だ。これに対し韓国は自由貿易の精神に反するとして、世界貿易機関(WTO)への提訴などの対抗措置検討を表明した。日本がG20などで提唱してきた自由貿易推進の方針に逆行するとの見方が強まる懸念もある。

 日本が初めて議長国を務め、大阪市で28、29日に開かれたG20首脳会議では、「自由、公平、無差別で透明性があり、予測可能な安定した貿易及び投資環境を実現するよう努力する」と明記した首脳宣言を採択した。特に日本は自由貿易の推進に向けた世界貿易機関(WTO)改革を提唱し、韓国を含むG20各国を主導した立場だけに、G20閉幕直後の日本政府の対応に、国際社会からの不信感が高まる可能性がある。

 また輸出制限措置は、元徴用工問題の解決に向けて韓国の行動を促す狙いもあるとみられる。だが、こうした手法は、安全保障問題を引き合いに貿易面で相手国の譲歩を引き出そうとするトランプ米政権にも重なり、WTOに整合的な行動を主張する日本に疑問の目が向けられかねない状況だ。

 日本政府は「輸出管理に関する韓国との対話が一定期間行われていない」として、「韓国側で適切な輸出管理がなされているか確認できない」(経産省幹部)ことを、輸出制限措置の根拠とする。軍事転用が可能な製品の輸出管理強化は、武器の不拡散などのために必要との立場だ。西村官房副長官も1日の会見で「自由貿易に逆行するものではない」と強調するが、国際的に理解を得られるかは不透明だ。

 韓国が今回の日本の措置を不当だとWTOに提訴した場合、日本がG20議長国として打ち出したWTO改革の足並みの乱れにつながる可能性もある。【松本尚也】


(毎日新聞)








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