prime

<書評>『中国で読む大城立裕文学』 揺れ動くアイデンティティー


<書評>『中国で読む大城立裕文学』 揺れ動くアイデンティティー 『中国で読む大城立裕文学』常芬著、青山優太郎訳 琉球館・2420円
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

 日本において沖縄文学が論じられる際、特徴的な傾向が見られる。著者は「ある種国民的な総意が形成され、色眼鏡で以て戦後の沖縄文学が俯瞰された」と指摘する。政治・文化・民俗を主題にする大城文学はその典型として見られてきただろう。

 日本対沖縄の二項対立的で硬直した認識を解きほぐすためにも、第3の視点が必要だ。本書は〈中国〉という観測点を導入して、大城文学を読み解く。序章では中国の大城文学研究史を簡潔にまとめ、続く章では具体的な作品分析に入る。『小説 琉球処分』『さらば福州琉球館』『花の碑』など中国との深い関わりを主題にもつ作品が取り扱われる。

 沖縄を座標軸の原点に据えることにより、古琉球までさかのぼる歴史(縦軸)と、東アジアの政治・文化的な空間(横軸)を一挙に視野に入れることができる。大城作品の力学をとらえるためには、沖縄・日本だけに焦点を当てず、時間と空間を超えて東アジアにまで視野を広げていくことを著者は説く。

 では、〈中国〉を間に挟むことにより何が見えてくるのか。その一つは「アイデンティティー」の問題である。〈日本人〉〈沖縄人〉をめぐっての自我の揺らぎを痛々しく体験する『朝、上海に立ちつくす』(第1章から第2章で分析)は、その後の大城作品を方向づける重要な作品であろう。

 大城は「日琉同祖論」に傾いていたのが、ある時期を境に日本を批判的に見るようになったと著者は述べている。その疑問点にこそ、大城そして沖縄の揺れ動くアイデンティティーの葛藤が見られるのではないだろうか。大城の膨大な作品群は、常に沖縄の人物たち(為政者から民衆にいたるまで)に寄り添い、その心性を描き出そうとする試みであると考えるなら、大城の思想の転向に見えるものも、長い歴史の経験に培われた沖縄の多面的な思想を率直に反映していると見なすことができる。

 中国での大城文学研究は緒に就いたところである。これからの刺激的な研究が待ち望まれる。

 (崎浜慎・作家)

 じょう・ぶん 1985年中国湖北省生まれ。長江大学外国語学院講師。主要業績に「試論辜鴻銘与岡倉天心―東西方文化碰撞中的中日文明観」「亀甲墓―方言風土記」など。