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広がるシェア型書店 個性的品ぞろえ魅力 地域活性化、交流の場にも<サーチライト>


広がるシェア型書店 個性的品ぞろえ魅力 地域活性化、交流の場にも<サーチライト>
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 全国で書店の減少が続く中、本棚の一画を個人に貸し出し、自身が集めた本などを販売してもらう「シェア型書店」が各地に広がっている。新刊書店にはない個性的な品ぞろえに加え、棚主同士の交流や地域活性化につながる「場」としての魅力にも注目が集まる。

小宇宙

 アンティークの英国製シャンデリアが照らす壁一面の本棚には、古書やDVD、アート作品などがぎっしり。本の街・神保町に2022年にオープンした「猫の本棚」は、異国のような雰囲気が魅力のシェア型書店だ。

 棚主は俳優に落語家、映画監督ら各界の著名人から主婦までバラエティー豊か。共通項はただ一つ、本好きであることだけ。「棚主さんの個性がものすごく出る。本棚はミクロコスモス(小宇宙)だと感じます」と、オーナーの水野久美さん。

樋口尚文さん(左)と水野久美さん

 150ある棚のうち、共同店主で映画評論家の樋口尚文さんが選書した50の棚には、ここでしか出合えない貴重な「文庫」がある。いずれも亡くなった映画監督の大島渚さん、大森一樹さん、青山真治さんという3人の蔵書を預かり、販売しているのだ。「過去のものではなく、故人と触れ合うよすがとして本があれば。若い人が多く買っていくので驚いています」(樋口さん)

 出版社や書店がひしめく本の“聖地”神保町にはシェア型書店の開店が相次ぐ。22年にはフランス文学者の鹿島茂さんプロデュースの「パサージュ」がオープン。今年4月には直木賞作家の今村翔吾さんが経営する「ほんまる」も開業した。水野さんは「シェア型も経営は大変」と前置きした上で、「紙の本を何とか救いたいという棚主さんたちの思いに支えられている。この空間は野生動物保護区みたいなものです」とほほえむ。

「大島渚文庫」と「大森一樹文庫」が並ぶ一画

商店街に

 シェア型書店を地域活性化につなげようという動きもある。1月、福島県田村市のシャッター通りとなった商店街に「Arumatie(アルマティエ)101人のシェア型本屋」が正式にオープンした。登録料1万5千円を払えば、棚の一画を月額3950円で借りられる仕組み。現在は県内外の50人余りが利用し、絵本や小説、ビジネス書といった思い思いの本を手作りのポップを添えて販売している。運営する吉田正之さんは「読書会など、棚主主催のイベントも積極的に開催しています。県外からわざわざ来てくれる人もいるんです」と語る。

本棚の前に立つ吉田正之さん

 人口減少や高齢化が進む地元で町づくりに携わろうと、大手ゼネコンを退社し、Uターンしてきた吉田さん。元々本を読むことが好きだったこともあり、シェア型書店に着目。東京都内の店舗を視察するなどしながら構想を練ってきた。

 「本には人を引きつける力がある。人と人が交流することで、新しいアイデアが生まれる場所にしたい」と吉田さん。「棚主の中には、本を扱うバーを開店したいという人もいる。起業や出店したいという人も支援していきます」と意気込んでいる。

シェア型書店「猫の本棚」の店内

受け皿

 書店運営のサポートなどに取り組む「未来読書研究所」共同代表の田口幹人さんによると、近年、書店の開業に関する相談は増えているという。シェア型書店は「仕入れの手間などがないため参入しやすく、そうした人の受け皿になっている」と田口さん。「街の中で本と出合う場所が増えるのは、出版文化のためにもいいことだ」と話している。

 (田北明大、安藤涼子・共同通信記者)