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<書評>『しのび寄る「新しい戦前」 ここまで来ている戦争準備』 阻止へ、あらゆる手段用いて


<書評>『しのび寄る「新しい戦前」 ここまで来ている戦争準備』 阻止へ、あらゆる手段用いて 『しのび寄る「新しい戦前」 ここまで来ている戦争準備』渡辺国男著 日本機関紙出版センター・1540円
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 「新しい戦前」

 2022年暮れのテレビ番組でタモリ氏が述べたこの言葉通り、戦争準備が突き進む南西諸島。そこでは防衛のためとして配備されるミサイルが逆に標的にされる恐れが強まっている。

 本書では様々(さまざま)な資料と取材、石垣を中心とした現場の声を基に、リアルな状況が手に取るように伝わる。「このまま黙っていたら島が戦場になる」との住民の切実な思い。行政への陳情、住民投票条例に基づく議会要請、そして司法にも訴えるなど、あらゆる手段を用いた戦争準備阻止の努力が紹介されている。彼らの営みは様々な困難に直面しながらも事態の本質を明らかにしてきた。それは(1)防衛のための戦略を進めれば進めるほど、逆に標的になる危険性が高まるということ。そして(2)いったん戦場になってしまえば、そこで暮らす住民には逃げ場など実際にはないという厳然たる事実である。

 他方、今進んでいる軍備拡張路線は、この国全体の安保・防衛政策の大転換であり、国の形を大きく変容させるものである。本書後半では軍事費拡大に前のめりになる予算配分と、それに群がるように集まり、にわかづく軍需産業の実態も鮮明だ。それは同時に、私たちの国や社会の中での産業・経済・財政の在り方を根底から歪めてしまうことになる。将来この国を担う子どもたちの教育分野に至るまで、強い国家・競争に勝てる国家づくりを系統的に進めてきた「戦争準備の系譜」も簡潔にまとめられている。

 着々と進む戦争準備ではあるが、今ならまだ間に合うと著者は強調する。命がけで「戦争を避け、外交で問題解決を図る」努力の継続により、流れは変えられる。求められるのは私たち自身が「情報を集め・学習し・賢くなる」ことである。著者が最後に紹介したのは、戦乱の世の実相を描いた「大阪夏の陣図屏風~戦国のゲルニカ」であった。ありったけの地獄を集めたと評される沖縄地上戦。政府の行為により二度と戦争を繰り返させない。そんな熱い思いの詰まった一冊である。

 (西晃・弁護士・第4次嘉手納爆音訴訟弁護団)


 わたなべ・くにお 1945年、福井市生まれ。大阪在住、ノンフィクションライター。主な著書に「肺がんステージIV 山好き女の挑戦」や「安倍晋三元首相銃撃事件の深層」など。