著者の豊里友行は、俳人であると同時に写真家である。写真家であることが豊里にその俳句にも強い個性を与えている。
金子兜太に師事したことからも分かるように、社会性を持った俳句がその初期から特色であった。こうした独自性が、2002年に第1句集『バーコードの森』で沖縄タイムス芸術選奨奨励賞(文学部門・俳句)を受賞させた。その後、20代、30代の作家を顕彰した『新撰21』で豊里の名は広く俳壇に知られるようになった(高山れおなが小論で激賞)。
以後4冊の句集を出し、今般第6句集として『地球のリレー』が8月に刊行された。新句集は、兜太の思想・態度を受け継ぐとともに、「地球戦争」「核の世の崩壊」「宇宙史」などのキーワードをちりばめた歴史意識で構成されている。また顕著なのは、〈沖縄世(うちなーゆ)をたぼれ凸凹な地球独楽〉〈新北風(みーにし)を吸い込む巻き貝の回廊〉の在地性を強烈に融和させ、歌い込んでいる点だ。豊里の進歩と見ることが出来、盛り沢山な内容となっているのである。
ただその一方で、こうした強烈な詠法―メッセージ性とでもいうべきものに対比される、不思議な叙情性が醸し出されている点も、この句集を紹介するに当たって述べておきたい。
〈陽炎の十八歳の手榴弾〉〈みんな星しぐれ八月十五日〉〈図書館の君等琉球弧の真珠〉〈プチトマトたち感情あらわにせよ〉〈光のシャワーの瓦礫浮く閑さよ〉〈菜の花は洋菓子店の絵画です〉〈さみしさは軋むことない春の椅子〉
従前の作品のようなメッセージ性はないが、読者に心安らぐ共感を与えてくれる。
〈ロック歌手の生涯コザの蝉しぐれ〉〈とてもちいさな祭囃子の蕾〉〈さくらさくらさくらさくら麻酔覚め〉〈新緑の葉脈のダンサー日の光〉〈ぐらじおらすの波打つ歓喜の虹〉〈熱帯夜の翼は白い扇風機〉
五七五の俳句形式では述べきれなかった作者の思いがあふれ出してきている。豊里の新展開もこの句集には見えてくるのだ。
(筑紫磐井(つくしばんせい)・俳人)
とよざと・ともゆき 1976年、沖縄県生まれ。俳人、写真家。写真集「オキナワンブルー」で、さがみはら写真新人奨励賞受賞。初の句集「バーコードの森」でタイムス芸術選奨奨励賞受賞。その他、写真集や句集を多数発表。