菓子メーカーのナンポー(那覇市)はおからを使った商品の全国展開に乗り出す。昨年開発した「+TASUTO(たすと)おからビスケット」は県外向けに出荷体制を整え、米会員制スーパー「コストコ」の国内35店舗で販売が始まった。沖縄の製造業は高い輸送コストが販路拡大の壁になる。しかしナンポーは諦めなかった。「県外、海外を目指す上でコストコというチャンスを逃したくなかった」と語るナンポーの安里睦子社長がとった行動とは―。
「たすと」の開発は豆腐の製造過程で出るおからの廃棄問題に取り組む県内の学生の姿に触発されたのがきっかけだ。「体に足し算」をコンセプトに、たんぱく質や食物繊維を摂取できる。ナンポーはコロナ禍で観光客向けのお菓子の売り上げが激減し、経営が悪化した。その経験から新たに健康志向の食品市場を開拓し、ドラッグストアやスポーツジムでの展開や県外への販路拡大を模索してきた。
コストコの沖縄進出が発表され、安里社長が運営元のコストコホールセールジャパン(千葉県)の門をたたいたのは昨秋のこと。ちんすこうなど観光向けの商品を売り込んだが、コストコの担当者の興味を引いたのは、お土産として差し入れた「たすと」だった。「これで進めないか」と商談が動き始めた。
早速、壁にぶつかった。コストコの商品は大容量が特徴だ。全国販売には原料の乾燥おからが500キロ、生おからに換算すると5トン必要になる。県内では確保が見込めず、県外から調達し沖縄で製造するにしても輸送費の問題が立ちはだかった。
原料を沖縄まで運び、製造した商品を本土へ出荷する「二重コスト」は避けたい。そこで活路を見いだしたのが、おからの調達と菓子製造をまとめて県外で行う方法だ。ナンポーは本土で「全く無名」(安里社長)でつてもなかったが、日本乾燥おから協会に相談すると快く引き受けてくれた。愛知県の豆腐大豆加工メーカーから提供を受けることでめどがついた。
製造を外注する工場も候補を挙げて足を運んだ。大量生産は困難だったり、コストコ側が要望する包装に対応できなかったりと何度も振り出しに戻ったが、同じ愛知県内で製造所が見つかり、生産委託(OEM)にこぎつけた。
コストコとの調整で得た学びは多い。「たすと」のパッケージは商品名が小さく、控えめなデザインはコストコでは「ただの壁紙になる(売れない)」と指摘された。箱の中の個包装や空気も余計なコストとみなされ、徹底した合理化を求められた。見栄えするデザインに一新し、課題を乗り越え8月から全国の店舗で販売が始まった。
県外での製造には「沖縄で作っていない」との否定的な見方がつきまとう。だが安里社長は意に介さない。「沖縄を理由に、コストの問題があるからと言い訳して県外展開を諦めては外で戦える力は育たない」と強調する。これまで通り、沖縄のおからを使った生産も続ける。
「たすと」に続き、今後は「体に引き算」をコンセプトに、糖質を少し減らし適量を摂取する「―HIKUTO(ひくと)」の開発が控える。「観光菓子メーカー」から「菓子メーカー」へ。ナンポーの新たな挑戦は始まったばかりだ。 (當山幸都)