経済

「働き方改革」で5時間労働、あるドイツ企業の成果

寄稿



By Eric Morath
2019 年 10 月 28 日 06:12 JST 更新プレビュー



テクノロジー関連のコンサルティング会社を経営するラッセ・レイガンズ氏(右)は勤務時間を8時間から5時間に短縮 IMKE LASS FOR THE WALL STREET JOURNAL


 【ビーレフェルト(ドイツ)】ラッセ・レイガンズ氏は、 フェイスブック をのぞいたり、全員返信のメールに対応したりすることで仕事の目標から脱線し、結果的に残業で幼い娘たちと過ごす時間が奪われていることに気がついた。

 そのため2017年終盤に小さなテクノロジー関連のコンサルティング会社を取得すると、大胆なアイデアを打ち出した。勤務時間を通常の8時間から5時間に短縮。しかも、給与と有給休暇は従来の水準に据え置いた。

 「社員は冗談なのか確信できない様子だった」。レイガンズ氏は当時をこう振り返る。「私が彼らを試していると考える社員もいた。だが、私はもちろん本気だった」

 同氏の会社「レイガンズ・デジタル・イネイブラー」の社員16人は午前8時に始業し、午後1時には仕事を終えることができる。レイガンズ氏は、週25時間の集中した勤務態勢と邪魔が入る週40時間の勤務態勢とでは、生産量は同じだと言い切る。

 レイガンズ氏は「オフィスでやる気が途切れ、ネットでニュースやフェイスブックをチェックして気分転換を図ろうとしても、心からリフレッシュできない状況を誰もが経験している」とし、「最初の5時間で集中的に仕事を片付け、それが終われば帰宅してきちんと休息を取るというのが私の考えだ」と話す。

 これを実現するには、勤務中のおしゃべりは奨励されない。ソーシャルメディアは禁止。携帯電話はバッグに入れたまま。会社の電子メールアカウントは1日2回チェックするだけだ。会議の大半は15分以内に終了する。

 レイガンズ氏によると、その結果、短縮勤務を導入しても、同氏の会社は顧客に対して、従来と同等の仕事を提供できている。顧客向けにウェブサイトやアプリ、電子商取引プラットフォームの作成・構築を手掛ける同社は、買収して最初の通期となった2018年業績で黒字を確保した。社員の幸福度が上がると顧客に対する仕事の質も上がるとし、短縮勤務は人手不足のドイツ労働市場で人材の確保にも役立つという。

 ある火曜日の午前7時55分、同氏の会社の社員は6階の小さなキッチンでコーヒーをそそいでいた。同僚と軽く言葉を交わした後、8時には全員が席に着いている。

 その後8時15分頃、プロジェクトマネジャーのジャナ・バーダック氏が愛犬ボニーとともに出社した。レイガンズ氏は当初、8時出社を義務づけていたが、この規定は緩和した。

 レイガンズ氏は「5時間勤務態勢を確立するというよりは、個人の成熟度の問題だ」と指摘する 。「仕事は場所や時間ではなく、活動なのだから、週40時間勤務に縛られるのはおかしい」


レイガンズ氏(写真)によると、短縮勤務を導入しても同氏の会社は顧客に対して、従来と同等の仕事を提供できているという PHOTO: IMKE LASS FOR THE WALL STREET JOURNAL

 社員らは、短い時間で同じ成果を出さなければならないプレッシャーから、5時間勤務には困難も伴うと明かす。勤務時間中に家族と連絡を取らないことにも慣れる必要があったようだ。

 だが短縮勤務のおかげで、マーケティングアシスタントのルーカス・ダコスタ氏(25)は、長年中断していた趣味の絵画を再開した。週末にはパートタイムの仕事をやる余裕がうまれ、友人とバスケットボールを楽しめる機会も増えたという。「日が暮れるまで働けば、家に帰ってソファに横になるだけの生活になる」

 レイガンズ氏は以前働いていた会社で、減給に応じる代わりに週2回、子供たちと午後を過ごすせるよう取り決めを結んだ。その数カ月後、仕事の生産量は以前と変わっていないとして、元の給与水準に戻すよう要請すると、同氏の同僚らは承諾したものの、この一件で同僚らとの関係はぎくしゃくしたという。レイガンズ氏が新たな勤務時間に関して調べるようなったのは、これがきっかけだった。

 レイガンズ氏がそのモデルとして参考にしたのが、2015年に5時間勤務を導入した米サンディエゴの会社タワー・パドル・ボーズだ。同社のスティーブン・アーストル最高経営責任者(CEO)は、起業家として勤務が不規則になることが多かったが、まだ働いている社員をよそに、会社を出てビーチに出掛けることに罪悪感を抱いていたと語る。

 試験導入当初は、生産的な社員には報い、非生産的な社員は排除できるなど成功を収めていたが、アーストル氏は2年後、5時間勤務を夏季限定に変更した。社員の私生活は充実したが、それと引き替えに仕事への情熱が冷めたとし、「スタートアップ企業の文化を失った」という。

 調査会社ガートナーの人材関連分析部門責任者、ブライアン・クロップ氏は、5時間勤務について、企業の間で広がる柔軟性重視のトレンドに整合すると指摘する。労働者の多くは、給与よりも柔軟な勤務体系に価値を置くためだ。調査によると、社員が生産的な仕事を行えるのは最初の4~5時間であることが示されており、短縮勤務は企業にとって、必ずしも生産量を犠牲にすることにならないという。

 クロップ氏は「最も重要かつ実行が困難なのが、心構えを意欲的に変えようとすることだ」と述べる。「単に言うだけで、翌朝まで社員のメール返信がないことに腹を立てることはできない」

 デジタル・イネイブラーでは、パソコン(PC)に終業時間までのカウントダウンが表示されている。午後1時になると、画面は「#ハイファイブ、#終業時間だ」に切り替わる。すぐに帰宅する社員がいる一方、会議室で同僚らと昼食をとる社員もいた。

 午後1時45分時点で、デベロッパー2人だけがPC画面にくぎ付けになって残業していた。 2人のマネジャーである前出のバーダック氏は 、顧客の締め切りに間に合わせるため残業が必要になることも多々あると話す。

 「顧客に毎回、もう午後1時だから、また明日とは言えない」と話すバーダック氏。だが顧客も変わりつつあるようだ。「顧客も理解している。中には自分も当社で働けないか打診を受けることもある」




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