経済

AIの教育活用進む中国、ある小学校の例


「孫悟空の輪」ヘッドバンドで生徒の授業に集中する度合いを測定、顔認識には非難も

By Yifan Wang, Shen Hong and Crystal Tai
2019 年 10 月 28 日 16:05 JST 更新プレビュー



中国ではAIカメラや脳波トラッカーを利用する教室が増えている


 金華孝順小学校(中国浙江省)のこのクラスでは最近、生徒は授業の初めに教科書を開くのではなくヘッドバンドをつける。

 生徒は「内なる世界」を感じることになっている2分間の瞑想(めいそう)の後、集中の度合いを競う競争に入る。測定はヘッドバンドで行う。

 競争は、教室前方のスクリーンに映し出される宇宙ロケットレースの形で行われる。ヘッドバンドが脳の神経細胞からの電気信号を測定し、アルゴリズムを使って集中度の点数に変換する。集中していれば点数が高くなり、その生徒のロケットがより高く飛ぶ。集中力が下がり、点数が落ちれば、ロケットは減速する。

 瞑想(めいそう)と集中度競争は、学習の効果を最大限にするための準備だ。通常の授業の間もヘッドバンドが外されることはなく、生徒の集中度を測っている。

 この小学校の語学教師チャン・イウェイさんは授業で使用しているヘッドバンドについて、「心理的な暗示のようなものだ」と話す。生徒は「監視されているかのように感じ、より大きな声で読み、授業に注意を払う必要があると感じる」という。

絶え間ない監視

 この試験プロジェクトの狙いは、教師が状況を把握し、生徒の注意力を改善すること。中国全土の教室で起きている人工知能(AI)ブームの一端を垣間見ることができる。

 幼稚園でも大学でも、デジタルカメラが生徒をスキャンし、教師の後ろで手を挙げている生徒やおしゃべりしている学生を検知する。顔認識ロボットが出席を取り、幼児に質問する。ブルートゥースのリストバンドが生徒の心拍数、図書館や園庭・校庭の滞在時間を記録する。推進派はそうした情報について、学校の安全性を高め、教師が学習の進歩を数値化するのに役立ち、より個人に即した教育が可能になると話す。

 高度テクノロジーの教育利用がますます積極化し、時に押しつけがましいケースも見られる背景には、中国政府が景気拡大の次のけん引役にAI業界を掲げていることがある。サンプル候補である生徒2億人前後へのアクセスを妨げるものはないも同然なことから、中国の科学者や研究員は比類ないデータベースを集めることができる。そうしたデータベースは高度なアルゴリズムの開発に不可欠であり、AIの分野で世界制覇を狙う米中の競争で中国の大きな強みとなる。

 金華孝順小学校のヘッドバンドは米マサチューセッツ州の新興企業BrainCoが開発した。3つの電極(額に1つ、耳の後ろに2つ)を使って脳の電気的活動を検知し、教師のコンピューターにデータを送っている。ソフトウエアは生徒の注意のレベルに関するアラートをリアルタイムで発し、授業の終わりにその分析を行う。


教師は教室でのAI利用について肯定的な成果が上がっていると報告する PHOTO: CRYSTAL TAI/THE WALL STREET JOURNAL

 BrainCoの米国事務所を率いるマックス・ニューロン氏は「誰が集中し、誰がしていないか、教師は直感的に分かる」と話す。「私たちが目指しているのは、そうした感覚的なものを数値にすることだ」

 現在の研究で電気信号を正確に解釈できるかどうか、疑う声もある。しかし、同校の教師らは、12月の試験プログラム開始以来、違いを感じていると話す。先の教師は「授業で最初にヘッドバンドを使った時、変化は明白だった。生徒が私の質問に答える声がずっと大きかった」と話す。使い始めてから学期の半分が過ぎると、このクラスの試験の成績は4年生の全クラスの中で2段階上昇した。

強まる批判

 一部の教師と生徒はヘッドバンドの見かけを、「西遊記」に出てくる金の輪に例えている。孫悟空が悪さをし、三蔵法師が経文を唱えると、頭を絞めつける輪だ。

 6年生の男子生徒ヤン・チャンシュワン君は、学校から時々送られてくるリポートに書かれた低い集中の度合いを両親が見るとプレッシャーを感じると話す。「両親はあきれた顔をして、壁を向いて反省しなさいと言う」。だが、ヘッドバンドを使い始めてから成績は上がったと話している。

 国務院の言う「スマート教育」については、政府が治安維持と社会の安定を理由に近年進めている市民監視の技術に似ているとの批判もある。

 9月には、一部の技術による監視が行き過ぎだとの非難が、中国ソーシャルメディアの多数ユーザーから噴出した。生徒の読んだ量、机での怠け具合、スマートフォンで遊んだ時間の把握に顔認識ツールを使い得ることを示す画像がオンラインに出回ったからだ。数日後には教育省が、学校でのデジタル技術・データ収集についての規制強化を呼びかける文書を発表した。


中国では教室でAI活用の事例が増えているが、行き過ぎだとの非難も噴出している PHOTO: CRYSTAL TAI/THE WALL STREET JOURNAL

教育を優先

 AI機器を製造する企業によると、中国の親は子供の安全についてひどく心配しており、学校の成績に強いこだわりを持つ親も多いため、中国市場への浸透は他市場に比べて簡単だ。政府がスマート教育に多額の資金を費やしていることも追い風だ。

 BrainCoの中国支社幹部ガオ・ユアン氏は「中国の親は教育を非常に重視しており、競争が激しいことから、わが子のためになりそうなことなら何でも試そうとする」と話す。同社は自社最大の市場である中国に、2万個を超えるヘッドバンドを出荷した。米国では年内に同様の試験プログラムを年内に10校に増やす計画。

 米国の学校では市民の自由を侵害するとの懸念から、顔認識システムは反対に遭った。中国の学校でのAI技術導入は、両親から正式な承諾を得ずに行われることが多い。

 金華孝順小学校に通う6年生の子を持つ母親は、子供の脳波のデータが研究に使われても、技術や品質の改善に役立つのなら構わないと話す。

 中国の数百の教室に顔認識カメラを配置した北京漢王教育科技の幹部、張浩鵬氏は、この技術がいずれ中国の教育を向上させるとの認識を示した。しかも「低コストで多くの改善がある」と述べた。




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