「困難は感動を千倍に」 ヨットで太平洋横断した全盲の男性語る


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岩本光弘さん

 2019年4月、小型ヨットでの太平洋横断に成功した全盲の岩本光弘さん(53)=米国カリフォルニア州=が今月11日から16日にかけて来県し、県内各地で講演や交流を行った。15日、那覇市の琉球新報社を訪れた岩本さんは自身の経験をなぞらえながら「困難や苦難はその先の感動を百倍、千倍にする。生きてさえいれば素晴らしい経験ができる」と強調した。

 1966年、熊本県天草市生まれ。先天性弱視で13歳から徐々に視力が低下し16歳で全盲になった。自殺も考えたが、「見えなくなったことは何か意味がある」。生きる希望を取り戻し、大学進学や留学を経て筑波大学付属盲学校に教員として14年間勤務した。

 ヨットとの出合いは2002年。妻の誘いがきっかけで操縦を体験し魅力にとりつかれた。13年、キャスターの辛坊治郎さんと太平洋横断に挑戦したがクジラに衝突し失敗。浸水して海上自衛隊に救助された。「海が怖くなった。見えなくなった時と同じ苦しみだった」と振り返る。

太平洋横断に挑戦した岩本光弘さん(右)とダグラス・スミスさん(提供)

 二度の大きな挫折を経験した岩本さん。「苦悩や困難は全て意味がある。もう一度立ち上がろう」と決心し、太平洋横断に再挑戦することを決めた。そんな中、健常者の米国人ダグラス・スミスさんと出会い、2人で横断を目指した。

 19年2月24日、2人で米国カリフォルニア州サンディエゴを出航した。イルカとの触れ合いを楽しみ、沈む夕日や月のエネルギーを感じた。波が荒れ、命の危険を感じたこともあった。55日かけて福島県いわき市に到着した。「横断を達成した時は、表現できないほど感動した」と語った。

 数々の困難を乗り越え、夢をかなえた岩本さんは「やりたいことがあれば、諦めないで挑戦し続けてほしい」と力強く訴えた。
 (上里あやめ)