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経済に影響する気候変動、もはや絵空事ではない

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By Greg Ip
2020 年 1 月 17 日 13:33 JST 更新プレビュー




――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

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 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は昨年、複数回の利下げによって同国の減速する経済が好転すると期待していた。それは同国史上最悪の森林火災が、観光業や消費者信頼感、今年の経済成長見通しに打撃を与える前のことだった。今や中銀はすぐにも追加利下げに動く可能性が高い。

 気候変動の経済的影響がもはや非現実的でも微小でもなくなった世界にようこそ。プエルトリコは2017年のハリケーン「マリア」の被害から完全に立ち直っていない。米カリフォルニア州では極度の干ばつと送電線の管理不備が2018年に大規模な山火事を引き起こし、昨年は電力会社が経営破綻。計画停電も実施された。

 ハリケーンやカリフォルニアの山火事、豪森林火災をはじめ、異常気象のどれ1つをとっても気候変動が直接の原因とは言えない。だがこうした事象の確率を高めている。「テールイベント(まれにしか起きないが、発生すると影響が極めて大きい事象)ではなくなりつつある。経済的結果に影響が出始めている」。米ダラス連銀のロバート・カプラン総裁は今月の経済会議でこう語った。

 今後30年間に迎える「気候危機」は、過去数十年間の金融危機と共通点がありそうだ。潜在的に甚大な被害をもたらし、ほぼ予測不能で、根本原因の威力を考えると不可避である。

 気候はすでに企業の懸念材料のトップに躍り出ている。

 世界経済フォーラム(WEF)は毎年、経済界、政界、学術界、非政府組織のリーダーにアンケートを取り、サイバー攻撃から財政危機に至るまで、最も発生しやすく重大な影響があるリスクについてランキングをつける。来週スイスのダボスで開催される年次総会に先立ち、WEFは2020年版を発表した。それによると、発生確率でみた上位5リスクを気候関連が占めた。調査開始以来の14年間で単独の問題が上位を占めるのは初めてだ。
 





 もちろん、各国の経済は常に自然災害に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。近代産業時代以前は穀物の不作が景気後退の主要な原因だった。インドは今でも雨期が大きな経済変数となっている。2011年に東北地方で発生した地震と津波は日本を景気後退に追いやった。

 また、気候がいかなる影響を経済に及ぼすかは不確定要素に満ちており、主要経済国が景気後退入りするとか、ましてや経済恐慌に陥ることは示唆していない。

 JPモルガン・チェースのデービッド・マッキー氏が確認した各種調査によると、「いつも通りに事が進む」(すなわち、二酸化炭素排出量を軽減する政策を欠いたまま)だと仮定すると、気候変動は世界の国内総生産(GDP)を2100年までに1~7%押し下げる可能性がある。80年かけてその影響が広がると考えれば、その間に1人当たり所得は恐らく300~400%上昇するため、たとえもっと大きな気候変動の影響があっても軽微に感じるだろうと同氏は言う。

 ただ、世界GDPの変動率は誤解を招きかねない。世界的な気温上昇に伴い、異常な気温や異常気象、関連する経済的影響が発生する確率はもっと高まるはずだ。

 こうした関係を浮き彫りにしたのが、16日にマッキンゼー・グローバル・インスティテュートが公表した調査報告書だ。その推定によると2015年には「異常に暑い夏」が北半球の地表面の15%に影響したが、1980年以前はわずか0.2%だった。

 またマッキンゼーは、気候変動のせいで、2019年にフランスで1500人が死亡した「欧州熱波」の発生確率が10倍高くなり、2016年にカナダ・アルバータ州北部を焼き尽くした「森林火災」の発生確率は6倍高まったと推定する。

 将来に向けてもいつも通りに事が進むと仮定すると、所定の年に小麦、トウモロコシ、大豆、米の収穫量が10%落ち込む確率は、現在の6%から2050年には18%に上昇するとマッキンゼーは予想する。そうした変化が食糧不足を引き起こすことはないが、価格上昇を引き起こす可能性はある。サイクロンによる災害が西太平洋諸国の半導体生産を壊滅させる確率は2040年には2倍~4倍に高まる。そうした事象は「直接影響を受けた企業にとっては潜在的に数カ月にわたる生産停止につながる可能性がある」とマッキンゼーは指摘。多くの電子機器に不可欠な希土類(レアアース)を掘り出す中国南東部の鉱床を操業停止にするほどの豪雨が降る確率は、現在の2.5%から2050年には6%に上昇する。

 だがこれには、多くの注意書きがついてくる。この予測は「適応力」を考慮に入れていない。一部の戸外活動が屋内へと移動し、一部の企業が氾濫原から移転し、保険が多くのコストに備えを提供するのは間違いない。

 だが、適応力はその程度でしかない。人間は一定の限界を超えて高温や湿度が続くと生きられない。そうした限界に遭遇することは、今はまれだが、2050年には一部地域でたびたび経験するだろう。

 適応力にも保険にも恐らく費用がかかりすぎるとみなされる。「異常気象が広がるにつれ、保険不足が一層悪化するだろう。なぜなら保険に入る人が減るからだ」。マッキンゼーはこう予想する。

 ウォール街の一部では気候変動を金融危機と同様にみなす動きが始まっている。米資産運用会社ブラックロックのローレンス・フィンク会長兼最高経営責任者(CEO)は今週、「気候変動はほぼ常に、世界中の顧客とブラックロックが話し合うトップイシューだ」と語った。同氏は企業経営者を前に、ブラックロックが7兆ドル(770兆円)の運用資産を投資する際、なぜ気候を重要な尺度にするのかを説明した。企業側からみると、気候変動そのものとは別に、官民問わずに課される至上命題がリスクをもたらす。例えば、自動車メーカーは目下、採算化の保証もなしに電気自動車(EV)を売り出すための投資を強化している。

 また中央銀行の一部も、金融危機を語るがごとく、気候リスクを論じている。欧州中央銀行(ECB)総裁に就任したクリスティーヌ・ラガルド氏は昨秋、欧州議会に対し「最小限でも(中略)、(ECBの)マクロ経済モデルに気候変動リスクを組み入れるべきだ」と述べた。

 ただ、それを心配するのとそれについて行動するのとは別だ。ウォール街も中央銀行も、金融危機とは異なり、気候危機の可能性を高める力、すなわち二酸化炭素排出量の増加や、気候変動の影響を受けやすい地域の経済発展について、それを変える手段を持ち合わせていない。変化を起こせるのは政治指導者のみだが、彼らに行動する気があるのかは定かでない。

 スペインのマドリードで12月に開催された国連気候枠組み条約第25回締約国会議(COP25)は「世界的な排出量取引制度を作るための国際協力が不調に終わった最新の例だ」とマッキー氏は言う。「十中八九、これからも政策担当者はいつも通りの道筋をたどるだろう。(中略)そして行動が遅れれば遅れるほど、気候変動に対処するコストが上昇する可能性は高まるのだ」




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