「安心」「輸出にリスク」 豚熱ワクチン接種へ 養豚農家から歓迎の一方、戸惑いも意見が分かれるワケとは…


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 玉城デニー知事が豚熱(CSF、豚コレラ)の感染拡大を抑えるためワクチン接種の方針を正式に表明したことに、不安を抱えてきた養豚農家から予防策として歓迎する声が上がり、農家負担の軽減や全農家への接種の徹底を求める意見が出た。一方で、日頃から養豚場周辺の衛生管理を徹底して付加価値の高い養豚業に取り組んできたという農家の中には、ワクチン接種が強制されることに抵抗を覚える意見が根強い。

 南城市で養豚に携わっている個人農家の男性は、「感染拡大の不安は軽くなる。南部でも戦々恐々としていた」と一安心したが、「県にはワクチン接種に掛かる費用を負担してほしい」と求めた。

 豚熱の感染が確認された本島中部で養豚を営む40代男性もワクチンを「打つべきだ」と歓迎した。一方で「(ワクチンを)打てと言われても打たない農家が必ず出てくる。県や獣医師らはきちんと農家を指導しているが、基本的に聞かない農家が多い。農家はウイルスをまん延させない意識を持たないといけない」とくぎを刺した。

 また移動や搬出制限区域の設定により、豚が出荷できずふん尿の回収もできていないといい、「消毒が100%できず二次被害も想定される。国や県は農家が安心して仕事ができるよう補償などを早く決めてほしい」と要望した。

 これに対し、今帰仁村内で数百頭を飼育する農家の男性は「侵入経路を断てば感染は防げるので、できれば打ちたくない。接種は強制かどうかも気になる」と打ち明ける。県産豚のブランド力に影響するとしてワクチン接種のリスクを懸念しており、「当面の感染防止策としてはいいが、沖縄の豚を世界ブランドとして輸出する上でリスクがあるのではないか」と話した。


<用語>豚熱ワクチン

 豚熱ワクチンは、病原性を弱くした豚熱ウイルスと添加物を注射して豚の体内に抗体を作り、免疫作用によって病気の発生を予防する。

 昨年9月に政府がワクチン接種の再開を決定して以降、22日現在で17都府県で接種を実施し、3県で接種が決まっている。岐阜、愛知、長野など豚熱が発生した県のほか、周辺の都府県でも予防のための接種を実施している。

 ワクチン接種が決まれば、県が家畜防疫員に命じて強制的に実施する。接種が一度始まれば、10年程度で継続的に接種を続ける必要があるとされる。食用に出される肥育豚であれば子豚が生まれるたびに30日後を目安に1回ワクチンを接種する。繁殖用の豚は一生のうちに3回接種することになっている。

 ワクチンは県が国から一括購入し、その後、国が半額分を補助する。都道府県ごとに農家が負担するワクチン費用は異なるが、沖縄県は農家から1頭当たり160円の手数料を徴収する考えだ。他県で初回の手数料を免除する事例もあり、県は調整を進めている。

 ワクチンを接種した全ての豚が体内で免疫を得られるとは限らず、約1割で抗体が付与されない場合がある。

 抗体ができずウイルスに感染する豚が発見された場合、ワクチン接種した豚を含めて農場内全ての豚が殺処分されることになる。