「仁士郎だって普通の若者」 一人をヒーローにしてはいけない理由


社会
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「一人一人が考え、意見し合っていい」と語るフリーライターの島袋寛之さん=21日、那覇市

 辺野古新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票を1週間後に控えた2019年2月17日、那覇市中心部は熱気に包まれた。アーティストたちがラップやレゲエの音楽に合わせて県民投票への参加を呼び掛ける。それを受けた若い世代が自分の意見を語り合う―。「すごいことが起き始めている」。那覇市出身のフリーライター、島袋寛之さん(42)=東京都在住=はインターネット中継を見ながらそう感じた。

 島袋さんはウェブメディアや週刊誌を中心に、音楽や映画だけでなく米軍基地や政治についても扱う。米軍基地で生計を立てる人も少なくない中、地縁、血縁が強い沖縄で基地問題を語ることは敬遠されがちだ。さらに「基地反対=左翼、反日」という構図にはめ込まれる。

 「記事を読んだ同級生が『シマ(島袋さんの愛称)とは会えない』と言っているらしい」。意見を言えばたたかれるような社会なだけに、「みんなで基地問題を考えよう、みんなで語ろう」と声を上げる若い世代の出現を「一般市民発のムーブメントが生まれつつある」と見る。

 一方で、危惧することもある。県民投票の実現に向け、ハンガーストライキを行うなど体を張って運動を引っ張った「『辺野古』県民投票の会」の元代表、元山仁士郎さんのように、象徴的な人物がヒーローとしてもてはやされることだ。

 「仁士郎だって毎日、政治や基地問題を考えているわけではない。大学の単位や論文のことを気にする普通の若者で、ヒーローなんかじゃない」。誰か一人に重荷を背負わせるのではなく、一人一人が自分の問題として考え、意見を言い、行動することこそが大切だと考える。

 1年前に県民投票への参加を呼び掛けた音楽祭は今月24日、形を変えて開催される。島袋さんはそのトークセッションに参加する。テーマは、沖縄と音楽と政治と暮らし。「音楽だって政治だって生活の一部。考えるきっかけになればいい」。辺野古ノーの民意を示しても埋め立ては強行されている。「新基地建設を止められていないから県民投票は意味がなかった、ではなく、意味を持たせるために動かなければいけない」 

(高田佳典)


 24日で米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票から1年。あらゆる形で示された人々の思いに触れた。

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