不器用な男の愛情表現 『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』


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 寡黙で、不器用で、愛情表現も拙い。一人の男の大きな愛に泣かされる。

 19世紀末、フランス南部の村で暮らす郵便配達員・シュヴァルは、毎日30キロもの道のりを配達していた。季節の移ろいを楽しみながらも、妻や娘への接し方が分からず頭を悩ましていた。そんなある日、珍しい石につまずき、娘アルスのために宮殿を造ることを思いつく。それから33年。郵便配達を続けながら、9万3千時間をかけて宮殿を完成させる。

 シュバルは村人の容赦ない嘲笑を買うが、彼を愛する娘と理解する妻はシュヴァルを肯定し包み込む。

 つまずいた石から発想を得て宮殿を造ろうと思い立つ、常人ではない想像力のシュヴァルだが、継続のエネルギーはやはり他者からの愛に他ならない。

 今の世なら「敬遠されそうな男性の代表格」のようなシュヴァル。そんな彼に襲いかかる大きすぎる苦難を一緒に受け止める、妻の懐の深さにこれまた涙して、ふたりが生きたかの土地へ行ってみたくなる。驚きの実話。監督はニルス・タヴェルニエ。(スターシアターズ・榮慶子)