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緊急事態宣言と沖縄 翼賛でなく条例で規制を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新型コロナウイルスの感染者が首都圏や関西圏などで急増している。この危機的な現状を踏まえて、7日、安倍晋三首相が緊急事態宣言を発表した。対象となるのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県だ。具体的な措置は都府県知事に委ねられる。緊急事態宣言によって、臨時医療施設のための土地、建物の使用が所有者の同意がなくても可能になる。また、医薬品や食品などの収用が可能になった。

 これに対して、住民の外出に関しては、自粛要請のみにとどまっている。公共の福祉を理由に人の移動の自由を規制することもできるが、中央政府はそれをしない。国民の同調圧力を利用すれば、外出規制という目的が十分達成できるからだ。前回の本連載で指摘したように、これは翼賛思想である。

 玉城デニー知事は8日の記者会見で、〈県内で新型コロナウイルスの感染確認が増えているのを受け、緊急事態宣言が発令されている間は県外からの訪問を自粛するように要請した。/玉城氏は沖縄県が「感染確認地域」から、1週間前に比べて感染者が大幅に増えているような「感染拡大警戒地域」に移行しているとの認識を示した。感染が広がった背景として、県外からの「移入例」が多く確認されるとし、「多くの方々が県外との移動をした結果、感染者が増えている」と指摘した。/その上で、「さらなる感染拡大が懸念されており、強い危機感を持って対応する必要性がある」と訴えた〉(8日、本紙電子版)。

 玉城知事の主張には合理性がある。筆者は、来週、沖縄を出張する予定であったが、緊急事態宣言の発表を受けて、仕切り直すことにした。「多くの方々が県外との移動をした結果、感染者が増えている」という現実を踏まえた場合、筆者が東京から沖縄に移動すべきでないと考えたからだ。

 玉城知事は、適切なタイミングで、必要なメッセージを発した。この点で筆者は玉城知事の決断に敬意を表する。ただし、原理的には気になることがある。自粛という、中央政府が行っているのと同じ手法を沖縄がとるのが果たして妥当であるかについては根源から考え直す必要がある。

 翼賛ではなく、法の支配によって、新型コロナウイルス対策の条例を定め、そこで移動の規制に関する基準を定めた方が、中長期的に沖縄にとって利益になるように思える。日本人の同調圧力に与(くみ)することの危険をわれわれは沖縄戦を通じてよく知っているはずだ。

 沖縄の自己決定権については、法の支配の貫徹も含まれる。繰り返すが、現時点において外出や移動の自粛は必要だ。しかし、それは緊急避難的な措置で、自粛によって移動の自由を規制すること自体に深刻な問題をはらんでいることを忘れてはならない。

(作家・元外務省主任分析官)