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コロナで一獲千金、製薬会社が狙わない理由


HEARD ON THE STREET

By Charley Grant
2020 年 6 月 10 日 11:42 JST 更新プレビュー



――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 新型コロナウイルスの襲来は製薬業界に大きなビジネスチャンスを与えている。だが、製薬会社がこの好機を最大限に利用するか否かという問題には、投資家の評価を超えた複雑な事情がある。

 米バイオ製薬大手ギリアド・サイエンシズは、同社が開発した抗ウイルス薬レムデシビルの初期製造分を無償提供したが、今後数週間以内には販売価格を設定する公算が大きい。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、メルク、ファイザーなどの製薬大手や有望なバイオテクノロジー新興企業もそれぞれ、ワクチン候補を開発中だ。

 効果が認められた治療薬の開発会社は、理論的には買い手が出せる上限の価格で販売することが可能だ。被害の大きい地域の多くでパンデミック(感染症の世界的大流行)が下火になり始めても、治療薬に対しては膨大な需要がある。安全性と効果が認められたワクチンは、企業や学校が一斉に休業になるリスクを低減し、結果的に経済活動の停滞による多額の損失を防ぐことができるからだ。

 レムデシビルの場合、ある治験結果によると、入院中の新型ウイルス患者にこの薬を投与したところ、治癒までの時間が短縮された。病院にとって、このことは大変重要だ。病院では新型ウイルス患者対応のために通常の診療が止まってしまい、結果的に資金面で大きな負担となったからだ。このような損害の教訓から、政府や病院はたとえ健康上のリスクが後退しても、治療薬の在庫を積み上げる見込みが大きい。SVBリーリンクのアナリストは、レムデシビルの2021年の売上高を60億ドル(約6500億円)以上と予想する。この推計は、1コースの投与量当たりの定価が米国で5000ドル(約54万円)、欧州で4000ドル、その他の地域で2000ドルとなることを前提としている。

 このシナリオでは、レムデシビルの営業利益率は20%弱となり、ギリアド全体の水準からみると半分にも満たない。だが、将来の価格決定力を危うくする可能性がある場合、可能な限り高い値段を付けることが長期的なビジネス戦略として最善であるとは限らない。これまでのところ、米国の大統領選においてトランプ氏もバイデン氏も、医薬品の価格設定を主要な争点としていない。これは2016年の大統領選と違い、製薬業界にはありがたいことだ。当時は高い薬価に対する反発が強まり、トランプ、クリントン両候補が規制強化を約束し、製薬・バイオテクノロジー関連株が打撃を受けた。製薬業界への怒りは現在休眠状態にあるが、11月の大統領選までに簡単に表面化してしまう恐れがある。

 過去を振り返ると、画期的な革新であっても価格論争を避けられないことが分かる。ギリアドは2013年末、C型肝炎治療薬ソバルディを投与1コース当たり定価8万4000ドルで発売した。ソバルディを服用した患者の圧倒的多数は治癒し、肝移植を受けた場合より費用を抑えることができた。だが、製薬会社の価格設定に対する批判は、上院財政委員会による調査など厄介な事柄につながった。

 このような落とし穴を避けることは、業界に有利な規制環境を維持する助けとなる。さらに言えば、製薬会社やその投資家にとって収益源として最も重要なのは、ワクチンや抗ウイルス薬といった一時的な療法ではなく、慢性疾患用の継続的な医薬投与だ。

 この構造の維持は、新型ウイルスによる短期的な利益の純増よりはるかに価値がある。




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