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アップル帝国の戦略転換、チップ内製化の損得勘定


テクノロジー

By Tripp Mickle
2020 年 6 月 24 日 08:26 JST 更新プレビュー



 アップルはこれまで、半導体など部品メーカーの巨大なエコシステムに生産を委ねることで、モバイル端末の帝国を築き上げてきた。だが、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は今、その多くを自社へと回帰させようとしている。

 アップルは22日、パソコン(PC)「Mac(マック)」について、年内から内製化チップを搭載したものに切り替えていくと発表した。これにより、15年にわたる半導体大手インテルとの提携は打ち切る。自社設計のチップの方が効率性が高く、画像の性能も上がると説明した。

 今回の動きは、外部サプライヤーが手掛ける部品の大半を自社開発品に切り替えていくという同社の包括戦略に沿ったものだ。独立系のハイテクアナリスト、ウェイン・ラム氏の分析によると、アップルは現在、スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の中核部品の約42%を自社で手掛けている。この割合は、約5年前の8%から大きく上昇しており、今後も将来的にモデムチップやセンサーが内製化されるのに伴い、さらに高まる見通しだ。

 自社で独自部品を手掛ければ、コストを削減できるほか、将来の新製品に対するアップルのコントロールも強まる。アナリストによると、内製チップ搭載の新型Macは1台当たりコストを推定75~150ドル(約8000~1万6000円)押し下げる見通しで、アップルは顧客や株主に浮いた分を還元できるだろうとしている。

 こうした戦略は、共同創業者、故スティーブ・ジョブズ氏が掲げていた「中核部品を自社で持てば競争力が高まる」とのアップルの哲学に根ざしている。アップルは内製化チップやセンサーにより、iPhoneやタブレット端末「iPad(アイパッド)」、Macのバッテリー性能や機能で、ライバル勢を大きくリードすることができるだろう。また、汎用(はんよう)部品を利用する中国勢との競争からも逃れられる可能性がある。

 アップル元社員によると、同社は何年にもわたり外部サプライヤーに頼りながら、中核部品の設計に必要な専門知識や技術を積み上げてきた。また同時に、取引先のサプライヤーに対し、アップル独自の機能を部品に加えるよう要求してきた。アップルはその一方で、自社チップの製造を任せる信頼できる半導体ファウンドリー(受託生産)として、台湾積体電路製造(TSMC)に白羽の矢を立てた。TSMCはスマホ需要が急増していた過去10年、iPhone向けチップの製造を担当してきた。

 アップルが10年をかけて進めてきた自前のシリコンチップ設計は、半導体業界を揺るがしている。インテルはラップトップPC向けチップで約20億ドルの売上高(全体の2~4%)を失う見通しだ。アップルがチップ設計を拡大するのに伴い、他の半導体メーカーの株価も近年、急落しており、一部のサプライヤーは身売りか、事業撤退に追い込まれている。

 「パフォーマンスの向上を追求する上で、業界の自然な成り行きだ」。カリフォルニア工科大学のカーバー・ミード教授(工学)はこう指摘する。だが、アップルのサプライヤーにとっては、その影響は非常に厳しいという。

 だが、サプライヤーの多くは、巨額の売上高をもたらすアップルとの取引を続けている。そのうちアップルが部品を自社で手掛けるようになるとの懸念がくすぶっていてもだ。ミード氏はこう話す。「それが起こり得るのは周知の事実であり、だからこそ、これは意識的な決定だ。このダンスを悪魔と踊るのか、それとも断るのか?」

 アップルはコメントを控えた。

 一部で「インソーシング」とも呼ばれる取り組みにより、アップルはデバイスの性能面で、競合勢よりも2年先を行くことが可能になると指摘されている。複数のチップが同時に機能できるようにすることで、電力消費を抑え、iPhoneやiPadの空き容量を一段と確保できるになるためだという。また、製品計画に関する情報流出リスクも低減できる。

 アップルの半導体部門は過去10年にエンジニア数千人の規模まで急拡大。チップ内製化を進めるのに伴い、ハードウエア技術の責任者ジョニー・スルージ氏も、アップル重要幹部の1人としての地位を固めた。同氏は将来のアップル製品の機能について、何年も前から影響を与える立場にある。

 アナリストによると、アップルはサプライチェーン(供給網)の取引関係を1つ断つことでコスト削減が可能になり、チップ内製化の費用を正当化できる見通しだ。チップの製造者を雇う設計者に支払うのではなく、チップの製造者に直接、支払うことが可能になるためだという。

 アップルはまた、内製化チップをさらに増やすため、オフィスを設置し、クアルコムやインテルのエンジニアらを引き抜いている。サプライヤー関係者が明らかにした。

 一方で、アップルが自社チップの開発計画を明らかにしたことで、英イマジネーション・テクノロジーズの株価は70%急落。その後、身売りを余儀なくされた。また、アップルが電力制御技術の開発に意欲を見せると、欧州のサプライヤー、ダイアログ・セミコンダクターは、アップルとの競争は避け、関連事業をアップルに売却した。

 アップルは過去10年に、6社以上の半導体メーカーを買収。これには、昨年10億ドルで取得したインテルのモデム事業も含まれる。

 ただ、内部ではサプライヤーと距離を置く方針を巡り、懸念の声も上がっているようだ。カメラ向けのセンサーを自社開発する計画を巡っては、ソフトウエアの開発によって求める改善が実現できると一部のエンジニアが主張し、議論になったという。

 元社員やアナリストは、新たな戦略を巡って、こうした緊張が生まれるのは当然のことだと話す。だが、将来のアップル製品を一段とコントロールできるという利点を踏まえれば、その代償を支払う価値があるという。




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