芸能・文化

『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』 親子に寄り添える社会を

『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』琉球新報取材班 朝日新聞出版・1540円

 東京の大学で、沖縄県民の所得が全国最低水準にあると講義すると、少なくない学生が「意外だった」との感想を述べる。沖縄経済は観光で好調なイメージがあるからだ。このようなイメージと実態のズレは、沖縄の内部でも起きているのではないか。

 本書に登場する少年少女たちは、家族や親族のつながりが深く、県民の仲間意識も強いという沖縄社会のイメージを次々に壊していく。新聞連載中には「一部の子の話のために、沖縄全体がこうだという印象を持たれる」との批判もあったそうだが、そこには「自分の知っている沖縄」が壊されていくことへの恐れもあったのではないだろうか。

 この本で出会うことになる子どもたちの多くは、家や学校に居場所がない。暴力に満ちた家には居たくないし、校則違反を理由に排除する学校にも居られない。そんな子どもたちが地元のネットワークやSNSを通して結びつき居場所をつくる。でも子どもなので、できることが限られている。そこに一部の大人がつけこみ、犯罪や「夜の仕事」へと誘っていく。それが危険なことはわかっていても、他に選択肢がない、あるいは選択肢の存在を知らないので、リスクを取らざるを得ない。

 子どもたちの親もまた、それぞれに問題を抱え、苦しんでいる。その不安が子どもたちに向かう。「子育てする力の弱い親」という印象的な表現があったが、こうした親を社会が支えてこなかったことが問題の根底にはあるのだ。

 本書には、こうした子どもたちや親を支える活動をしている大人たちも、何人も紹介されている。そんな大人がいることを知ってもらうためにも、まずこの本は、本書に登場したような少年少女たちに届けたい。だが本当に読まなければならないのは、「信頼している人なんてだれもいない」と子どもたちに言わせてしまうような社会をつくってしまった大人たちである。つらい記憶を思い出しながら実態を話してくれた子どもたちの思いに答えることが、私たちには求められている。

(熊本博之・明星大学教授)

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 「夜を彷徨う」は琉球新報で2018年1月から8月に連載された「彷徨う―少年少女のリアル」を中心に構成。毎月1ページの特集紙面「10代クライシス」も収録。19年6月、県内高校生らが大麻取締法違反容疑で摘発された事件の連載も一部加筆し収録した。



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