<深掘り>「自粛なら観光死ぬ」沖縄県、苦渋の見送り 緊急事態の瀬戸際「腹決めないと」 


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 玉城デニー知事が警戒レベルを第2段階「流行警戒期」に引き上げたのにもかかわらず、感染地域と沖縄間の渡航自粛要請をしなかったのは、繁忙期を迎える観光業界の強い意向を受けたからだ。那覇市松山地域の繁華街などでクラスター(感染者集団)発生の恐れがあるが、第2段階は「休業要請の検討」にとどまるため、業種や地域などの徹底検査で「スポット的に抑え込む」(県幹部)方針だ。ただ感染防止策としての実効性は未知数。警戒レベルが第3段階「感染流行期」に移ると緊急事態宣言が発令され、再び渡航や行動の自粛要請が行われる。現段階は瀬戸際にある。

新型コロナウイルスの警戒レベル第2段階における実施内容について説明する玉城デニー知事(右)=28日午後、県庁

■自粛で観光「死ぬ」

 「自粛という言葉が出たら我々の仲間が死ぬ」。警戒レベルが第2段階に移ったことを受け、27日に県庁で開かれた県と観光産業6社・団体との意見交換会。参加者からは強い言葉で危機感が表明され、観光客の来県自粛を求めた場合、県へ補償を求める声もあったという。国からの補助がないと県の財政力では十分な補償を行うことは困難だ。

 4~5月の国の緊急事態宣言で人の移動が制限され、県経済はいまだかつてないほど落ち込んだ。県による6月からの県内旅行需要喚起策に始まり、7月22日から国の観光支援事業「GoToトラベル」などの影響により現在は旅行需要は回復基調にある。

 玉城知事は28日の会見で「打撃を受けている経済の状況をいかにして回復基調に乗せていけるかどうかも考えながら、県民が安全安心な生活を送ってもらうことも一緒に考えていかないといけない」と語り、感染防止と経済回復のバランスを図るとした。

 県幹部の一人は「知事も迷っていた。正直言うと自粛要請を出したかった。観光業界や専門家の意見も聞きながら、双方を立てる方法を模索して苦悶(くもん)した」と苦慮しながらの決断だったことを明かした。

■腹を決める

 県の警戒レベルを判断する七つの指標のうち「入院患者数」と「病床利用率」「直近1週間以内の重症化率」は既に第3段階に達している。新規感染者数は連日、県内最多を更新し、中南部でクラスターとみられる事案が発生するなど状況は日に日に悪化している。米軍基地内の大規模クラスターという県政では対処できない事態も起きている。

 県幹部は「第3段階に入ったら県も腹を決めないといけない。ルールで決めているわけだから、業界が悲鳴を上げてもやらざるを得ない」と語り、複雑な表情を浮かべた。

(梅田正覚、西銘研志郎)