新型コロナウイルス感染拡大の影響で高校生スポーツの全国大会の中止が相次いだ中、高校野球の独自大会「2020沖縄県高校野球夏季大会」と沖縄県高校総体の集中開催が幕を閉じた。
感染対策のための規模縮小や観客の入場制限など、誰も経験のない異例ずくめの「夏」に臨んだ選手たちや主催者の思いを、運動部記者の取材から振り返った。
■休校や自粛を経て全身にあふれた喜び
県高校総体に挑む選手たちの取材を始めたのは開幕まであと1カ月に迫った6月中旬。
最後の夏に懸ける3年生の思いを中心に連載で紹介した。
印象的だったのは、競技ができる喜びをかみしめているような生徒たちの表情だ。春先から約2カ月に渡る休校や自粛期間を経て、ようやく練習を再開できた時期だった。
ヨットの上原瞬(知念3年)は「海上は気持ちいいですね。やっぱり海が好きです」と取材中、終始にこやかだった。
練習不足が否めない中で迎える大会。選手たちがどこまで本来のパフォーマンスを取り戻しているのか予想は難しいと感じていた。しかし、その心配も杞憂(きゆう)に終わった。
県総体の大会初日、自転車のトラック競技では玉城翔太(北中城3年)が1キロタイムトライアルで大会新記録をマーク。翌日の3キロ個人追い抜きでは県記録を塗り替えてみせた。「日本一を取る」と豪語していた春の全国選抜も夏の全国総体も中止になり、その無念を全てぶつけるような走りは圧巻だった。
重量挙げでは102キロ超級の山城英寿(南部工3年)がスナッチ、ジャーク、トータル全てで県高校記録を更新した。部活動ができない期間中も、下半身強化やフォームの修正などできることを探して取り組んできた選手だ。工夫して練習を重ねてきたことで「不安は全くなかった」と改心の試技だった。
もちろん、多くの競技で「春から練習ができていればもっと記録は伸びていた」「調整が難しかった」という声も聞かれた。ただ、コロナ禍で一時は大会の開催も危ぶまれた中で、開催を決断した県高体連や県高野連に「感謝したい」と語る選手も多く、失意を乗り越えベストを尽くす姿は頼もしく見えた。
■静寂の中、変わらぬ熱気
県総体では屋外競技に限り3年生1人につき保護者2人までの入場が認められたが、体育館など屋内の競技は無観客で行われた。
バスケットボールは沖縄で人気が高く、決勝は毎年体育館の観客席が満員になり、立ち見も出るほどだ。会場によっては観衆が数千人に及ぶ年もある。
無観客となった今年、事務局は異例の対応に追われた。
「広報係が動画撮影に回っちゃってるんですよね…」。女子決勝の開始前、高体連専門部のスタッフにメンバー表を要望すると、困ったように2階席を見上げた。
広報係に携帯電話で確認しながら、オーダー表を見せてくれた。会場入口では報道陣ら入場者の全身消毒を行うなど、専門部総出で運営に当たった。
毎年、応援席から音量を競い合うように響く両校の応援歌や鳴り物の音はない。静寂の中始まった試合は男女とも白熱。延長にもつれ込む大接戦を制した男子豊見城の選手たちは優勝の瞬間、雄たけびを上げ、抱き合い、涙した。試合後、高体連やチーム関係者は興奮気味に「観客がいたらすごく盛り上がったでしょうね」と口をそろえた。
同様に会場の雰囲気が一変したのが高校野球だ。高野連主催の夏季大会は3年生の保護者のみ入場が許可され、県の緊急事態宣言が発表されると準決勝以降は無観客となった。
「3密」を避けるため、通常は報道陣の部屋が用意される記者たちもスタンドからの取材だった。
迎えた8月2日の決勝。例年だと試合前の入場券売り場に行列ができ、1万人以上を収容する沖縄セルラースタジアム那覇が満員の観客で埋め尽くされるが、今年はその「風物詩」も消えた。
会場のタピックスタジアム名護に着くと、人のまばらなスタンドに乾いた球音がよく響いていた。「いいボール!」「打ってけー!」。バックネット裏後方に座っていてもベンチから飛ぶ威勢のいい声がはっきりと聞こえる。
好投や適時打には、手を重ねない「エアタッチ」で喜び合う球児たち。その活気だけは例年と変わらなかった。
優勝は「夏」初めての王者になった八重山。優勝が決まった瞬間、選手たちは甲子園出場が決まる例年の優勝校と同じように喜びを爆発させ、マウンドで天に向かって人さし指を突き上げた。
「甲子園はなくなったけど、八重山の喜び方は良かったですね。(準優勝の)KBCの選手の表情も充実感があった。最後までやれて本当によかった」。県高野連の岩﨑勝久会長はほっとしたように笑った。
部活動を引退し、受験勉強や就職活動にかじを切る者、秋冬に控える次の大会に向けて鍛錬を続ける者。
熱闘を終え、選手たちはもう次のステージへと足を踏み出している。
困難を乗り越え、多くの支えの中で全力プレーを発揮した今夏の経験は、彼らにとって、将来に生きるかけがえのないものになってほしいと願う。
(運動部・長嶺真輝)