【記者解説】届かなかった市民の「最後の手段」 司法は「訴えの対象にならない」 石垣の陸自住民投票訴訟


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石垣陸自配備住民投票をめぐる訴訟の判決後、集会を開く原告団ら=27日、那覇市楚辺の城岳公園(喜瀨守昭撮影)

 石垣市平得大俣への陸自配備計画を巡る住民投票の実施義務付けを求めた訴訟で、那覇地裁は原告の訴えを却下した。「民主主義を守るための最後の手段だった」という、原告団の一人が漏らした落胆の言葉が、今回の訴訟が持つ意味を端的に表していた。

 原告側が提起した「義務付け訴訟」は、行政庁の公権力の行使に関して不服を申し立てる「抗告訴訟」の一つだ。同訴訟は個人の権利利益の保護を目的としているため、原告の当事者性が争点となる。

 原告は、石垣市自治基本条例を踏まえて求めた住民投票が実施されないことによる権利利益の損害を訴えた。だが司法は、原告ら住民投票の「有権者」について「法的地位が不確定」だとし、「訴えの対象にならない」と断じた。司法は粛々と「門前払い」したようだが、訴訟に至る経緯を見ると原告側の失意の大きさは容易に想像できる。

 訴訟の発端は、石垣市が市民から求められた住民投票を実施しなかったことにある。市民は、同条例の実施規定の下限である「有権者の4分の1」を大幅に上回る「有権者の3分の1」の署名を集めて実施を求めた。しかし、これほどの「民意」が集まったにもかかわらず、市議会は条例案を否決した。市民にとってはまさに「あり得ない事態」(原告団)だった。

 市側は「請求の効力が消滅した」として住民投票を求める市民の声を封殺した。「横紙破り」ともいえる強引な手法で権利を奪われた市民にとっては、司法の場に訴えることが残された「最後の手段」だった。

 「司法の役割とは何なのか」。原告からの悲痛な問いかけに、政治の力学で民主主義が踏みにじられる不条理への怒りがにじんだ。 (安里洋輔)