尖閣中国漁船衝突10年 漁師、国家間対立に翻弄 トラブル回避で漁獲量半減


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 石垣市の尖閣諸島沖で2010年9月、中国の漁船が第11管区海上保安本部の巡視船に衝突した事件から7日で10年が経過した。ナショナリズムの高まりにより日中関係は一気に緊迫した。周辺海域では現在も中国の公船が航行を繰り返す。日本政府は中国と台湾が連携するのを防ぐために13年、県内漁業者の頭越しに、台湾漁船に排他的経済水域(EEZ)の一部で操業を認める日台漁業取り決めを締結した。国家間の対立に翻弄(ほんろう)される漁業関係者は「漁ができない」と悲鳴を上げている。

 中国は事件後、尖閣諸島周辺海域に公船の派遣を続ける。今年は4月から8月に掛けて111日連続で接続水域を航行した。トラブルへの懸念や燃料費高騰などによる採算性から、周辺海域で漁をする漁業者は減少している。

 尖閣諸島周辺はカツオ類やマチ類の好漁場だ。宮古島市の伊良部漁協ではウブシュー(スマカツオ)を狙って毎年11月~3月に船を出してきた。だが衝突事件以降、漁の回数は年々減っている。伊良部島から同海域まで船で約1日かかる上、漁場についても漁ができるかどうか分からないためだ。

 伊良波宏紀組合長は「中国の警備船に追い掛けられたら漁はできない。燃料代などが全部無駄になる。漁獲量は10年前から半減している」と話した。

 海上保安庁の巡視船を増やすなど尖閣周辺の警備力強化を進める政府に対して、伊良波組合長は「自分たちの領土、領海と主張するなら漁業者が自由に漁ができる環境をつくるべきだ。先島の漁師は泣くしかない。このままだと漁業者はいなくなる」と訴えた。

 嵩西茂則与那国町漁業協同組合長は「10年経過しても、事態は改善どころか悪化して不安定な海域になっている」と、出漁をためらう状況があると説明する。今年5月には所属漁船が中国公船に接近、追尾される事案も発生した。「漁師にとって外交問題は関係ない。自由に漁ができることが大事だ。国と国で、一刻も早く安全に漁ができる穏やかな海域にしてほしい」と望んだ。

 政府が台湾との連携を急ぐあまり、県内漁業者の頭越しに合意した日台漁業取り決めへの不満も大きい。県漁業協同組合連合会上原亀一会長は、八重山諸島北方の「三角水域」や久米島西方の「久米西」などの好漁場で台湾漁船の操業が認められていることに「一等地を台湾に譲歩してしまっている。影響は大きい。ずっと(改正を)言い続けるしかない」と話した。