【記者解説】暴力団トップへの賠償命令 「使用者責任」認め、被害者救済に大きな一歩


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 市民社会が反社会的勢力の脅威に対抗する上で画期的な判決が下された。那覇地裁は9日、県内を拠点とする指定暴力団旭琉会のトップに、特殊詐欺事件の被害者への損害賠償を命じた。組員が関与した事件で、暴力団対策法上の「使用者責任」が認められた。県内でも被害が広がる特殊詐欺事件で、直接犯罪行為に加担していない幹部の責任を認める司法判断は、被害者救済への大きな一歩となる。

 使用者責任の適用を巡っては、2004年の改正暴対法施行が大きな転機となった。法改正で市民が巻き添えになる抗争事件で、トップの責任追及が容易になった。改正前は使用者責任の立証のハードルを前に、市民が涙をのむケースが少なくなかった。1990年に県内で起きた抗争事件では、高校生と警察官が組員に誤射され死亡した。いずれも一審は組長の使用者責任を認めたが、高裁で否定された。

 暴対法は2008年にも改正され、損害賠償責任を伴う使用者責任の適用範囲は、暴力団の「資金獲得行為」にまで広げられた。

 昨年5月に水戸地裁が、関東の指定暴力団トップに特殊詐欺で使用者責任を適用し、被害者への賠償を命じる全国初の司法判断を下した。今回の那覇地裁判決は、全国で広がる反社会的勢力排除の波が、県内にも波及したことを如実に示した。特殊詐欺は、主に高齢者など社会的弱者が標的となる卑劣な犯罪だ。暴力団が関与する事例も後を絶たず、今回の判決がそうした犯罪の抑止につながることも期待される。(安里洋輔)