「絵でみる御願365日」激推しの理由とは 「この沖縄本がスゴい!」大城洋太朗・実行委員長<晴読雨読>


この記事を書いた人 Avatar photo 嶋野 雅明

 登下校の道の途中。友だちと秘密基地を作った空き地。たむろした裏道。そんな日常の中にある、整えられた井戸や祠(ほこら)のようなもの。遊び場の近く、古いお屋敷の門の足元には線香の痕跡が時折現れる。台所のコンロの近くには白い容器があり、湯飲みが供えられている。母は決まった日になるとその容器に線香を立てひざまずき、何かを唱えている。身近に、そこら中に、不可思議で神秘的な「何か」があった。

 去る8月24日「第2回ゲキ推しの1冊!この沖縄本がスゴい!」の発表があり、むぎ社の「絵でみる御願365日」が選ばれた。令和も2年目を迎え、オリンピックの開催も控えたまさに新しい時代の息吹を感じる今こそ、立ち返るものがあるとの思いから選ばれた1冊だ。

 この本は、豊富な情報をタイトルの通り絵でみて分かりやすくまとめている。また、むぎ社独自の新旧暦御願カレンダーにより今日がどの日かも一目瞭然。“チムワサワサ”というトピックでは、まるで作者の座間味栄議(えいき)さんが隣で話してくれているような優しさが感じられ、思わず調べていた御願以外のページも読み進めてしまう。

大城洋太朗さん

 屋敷御願のページ。あの古いお屋敷の門の線香はジョウヌカミの拝みだったのか。別のページではハチウクシの説明。あの井戸はカーウガミの場所かもしれない。母のあの台所の言葉は感謝の意味があったのか。身近にあった不可思議が徐々に解けていく。

 旧盆のページではオジィとのやりとりを思い出す。「これで頭をなでるとリキヤーになる」と言われソーローバーシでたくさんなでられたが、私には効かなかったようだ。重箱の詰め方のページではシーミー後のオバァのカレーを思い出す。重箱の残り物が使用されており昆布やかまぼこが泳いでいる。ちなみに母のシーミー後のカレーには大きな餅が潜んでいた。重箱の残り物でカレーを作る文化は私の代で終わらせてやろうと決意した。

 調べものをしているのに、いろいろな思い出が湧き出てくる。

 日常に溶け込んだ御願事には超自然的なものへの信仰だけではなく、先人が残した生活の知恵がちりばめられている。情報が錯綜(さくそう)している現代、ふとそれらに立ち返らせてくれる、知恵と優しさに溢(あふ)れた沖縄本である。
 (むぎ社・1760円)
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 「絵でみる御願365日」の第2回「この沖縄本がスゴイ」受賞を記念した琉球歴史研究家、賀数仁然さんのトークイベントが13日午後5時、那覇市のジュンク堂書店那覇店である。入場無料。要マスク。

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 おおしろ・ようたろう 1987年読谷村生まれ。(有)大城書店外商部スタッフ、「ゲキ推しの1冊!この沖縄本がスゴい!」実行委員長。