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<佐藤優のウチナー評論>菅政権始動 新たな県内移設案探るか


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 19日、河野太郎沖縄担当相が就任後初めて来県し、玉城デニー知事と県庁で会談した。

 〈2020年度の沖縄振興予算の確保や21年度で期限が切れる沖縄振興特別措置法の延長、首里城の復元、名護市辺野古への新基地建設計画の断念など19項目の要望を盛り込んだ書面を手渡した。河野氏は「今までは外交と防衛に関して沖縄と接点を持たせてもらったが、今後は経済を中心に内政面でいかにサポートしていけるかが私の仕事になる」と述べた。/16日に発足した菅内閣の閣僚と玉城知事が会談するのは初めて。河野氏は、アジアと近い沖縄の地理的条件を「最大の優位性」として生かし、全国最下位の県民所得を改善することに意欲を示した。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎつつ、主要産業の観光を回復させる施策展開も進めていく考えを強調した。/河野氏は17日に基地負担と沖縄振興を関連付ける「リンク論」を「ひっくるめ論」と表現していた。ただ、会談で玉城知事も河野氏も「リンク論」には言及しなかった。米軍普天間基地の辺野古移設の是非を巡るやり取りもなかった〉(20日、本紙電子版)。

 菅義偉首相が辺野古新基地建設を巡り、膠着(こうちゃく)している県との関係を変化させようと望んでいる可能性がある。河野氏が「リンク論」「ひっくるめ論」を今回、口にしなかったのは、その方が近未来に中央政府にとって有利な状況を作り出せるという合理的判断からと思う。

 以下に記すことは、根拠となる情報に基づくものではなく、あくまでも筆者による推定だ。中央政府の一部に軟弱地盤の辺野古沿岸を埋め立てて新基地を建設するのは非現実的という考えがある。その場合も、米海兵隊普天間飛行場は、県内に移設するしかないという前提を中央政府は崩そうとしない。この前提こそが、日本の沖縄に対する構造化された差別なのである。もっとも差別者は、自らが差別者であることを自覚していないのが通例だ。

 中央政府内の現実主義派は、辺野古新基地建設を断念して、近接するキャンプシュワブ基地内に1500メートルの滑走路を建設するならば、日米地位協定上、県の許認可は必要なく、法的な支障なく基地の拡張ができると考えるであろう。この空港を軍民共用とすれば、北部住民の一部が歓迎する可能性がある。1500メートルの滑走路だとジェット機の運用はできないが、プロペラ機でも1500~2500キロメートルの航続距離があるので、県内全域の移動が十分可能だ。

 北部住民に関しては、沖縄振興予算から補助金を出し、バスと同料金の運賃を設定することもできる。さらに基地移設とリンケージさせずに中央政府が北部地域住民の医療環境改善という名目で、基幹病院整備を本格的に行う。厚生労働省の梃子入(てこい)れで、優秀な医師を継続的に配置できる仕組みを作る。このようにすれば、キャンプシュワブへの米海兵隊普天間飛行場の移設を容認する県民が多数になると計算している「戦略家」(元県幹部?)がいるかもしれない。

 「菅首相は、辺野古新基地建設一本槍(いっぽんやり)だ」という予断を持っていると、県が足を掬(すく)われるのではないかと筆者は不安を覚える。

 (作家・元外務省主任分析官)