見守り きめ細かく支援 「一人一人を理解」実践 「気になる子」の教育 宜野湾市


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
2017年、仲田丘さんが校長を務めていた学校で行われた男子生徒のケース会議の様子(仲田さん提供)

 授業中に席を立ち、床に寝転ぶ。宜野湾市教育委員会はごろも学習センターで教育アドバイザーを務める仲田丘(つかさ)さん(62)は、4年前に校長として勤務していた中学校の男子生徒を忘れられない。

 「一人一人のニーズに合った教育」を実践するには、どうしたらいいのか。仲田さんが思案を巡らせていた頃、現下関市立大学副学長の韓(ハン)昌完(チャンワン)教授が提唱する「イン・チャイルド」という考え方に出会った。

 イン・チャイルドは「包括的教育を必要としている子」という考え方。生徒の行動を基に実態を把握する「イン・チャイルド・レコード(ICR)」を用い、それぞれに合った支援方法を探る。仲田さんは説明を聞いた後、取り組む実践の輪郭がはっきり見えた。

 仲田さんら教職員は全生徒を対象にICR診断を実施した。ICR診断の結果、冒頭の男子生徒を含め「気になる子」を把握した。診断によると、生徒には注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の傾向があった。授業中の行動の原因が分かり、生徒に関わる全ての教員が参加するケース会議を開き、時間をかけて支援策となる個人プログラムを練った。

 教師の指示を聞きやすくするため前方に席を替えた。おしゃべりをする生徒と席を離し、プリント配布などの役割を適宜与えた。担任は周囲の生徒に「相手の行動が理解できない場合でも、まずは見守って」と協力を呼び掛けた。

 仲田さんによると、周囲の生徒らも「何とかしてあげたい」と感じていたという。その中で、ある生徒の言葉に仲田さんは胸が熱くなった。「周りの大人が対策しないから諦めていた。やっと正面から向き合ってくれる教師と会えたから、できることは協力する」

 支援を続けていくと、男子生徒に変化が見られた。多動や衝動的な行動は減り、6カ月後には以前よりも落ち着いて授業に臨めるようになった。「教師が環境を変え、環境が子どもを変え、子どもたちが学校を変えた」。仲田さんは実践の成果をかみしめた。

 現在、県内の小中学校では特別支援学級が急増している。文部科学省によると、2020年度の県内の特別支援学級設置数は小学校で1034学級、中学校で398学級。10年度は小学校が310学級、中学校が134学級となっており、小学校で3・3倍、中学校で約3倍に増加した。仲田さんは男子生徒との関わりを通し、「教育現場における『気になる子』の定義が曖昧だ。教師にとって『気にさわる子』が『気になる子』になってしまっているのではないか」と指摘した。

 本年度、宜野湾市は市内の全小中学校にICR支援システムを導入した。同校校長の3年間を振り返り、仲田さんは「ICRを通して生徒一人一人を理解し、ニーズにあった適切な支援ができれば、子ども同士の輪の中で成長させることができる」と強調した。

 韓教授も「(仲田さんが校長として務めた)学校では、3年間の支援で教員と生徒が正面から向き合い、生徒らが自主的に物事に取り組むようになった」と評価した。
  (吉原玖美子)