社会
沖縄からSDGs

コロナ禍、お腹をすかせた子に何ができるか SDGsカンファレンス【詳報】

貧困問題などについてセッションする(奥左から)山城康代氏、秋吉晴子氏、島村聡氏=10月16日、那覇市泉崎の琉球新報ホール

 国際社会が進めるSDGs(持続可能な開発目標)の推進を目指して、県内の企業・団体が連携する「OKINAWA SDGs プロジェクト」(OSP、事務局・琉球新報社、うむさんラボ)の第3回カンファレンスが16日、那覇市泉崎の琉球新報社で開かれた。今回は子どもの貧困問題がテーマ。

 島村聡・沖縄大学教授と、しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄の秋吉晴子代表、うるま市みどり町児童センターの山城康代館長が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う問題の深刻化や課題などについて話し合った。詳報は次の通り。


登壇する島村聡・沖縄大教授

<キーノートセッション>

■貧困は「見えない」


 島村聡氏 お2人へ、現状をどう考えているか。


 秋吉晴子氏 ひとり親、特に母子家庭はコロナ前から貧困状態にある。9割以上のシングルマザーが働いているが、収入は2人親世帯の3分の1程度。児童扶養手当を含めて平均223万円程度と非常に低く、貯金がない人も半数いる。平時からその日暮らし状態で大変厳しい。ここにコロナで約7割の人が失業や収入減少し、食べられなくなる家庭が増えている。


 私たちの活動は、当事者が仕事と子育てをしながらのボランティアだ。限られた活動時間で、できる範囲で続けている。これだけ食べられない世帯が増える中、今までやっていなかった食料支援も始めた。相対的貧困が絶対的貧困に近づいてきており、本当に危機感を感じている。


 島村氏 相対的貧困とは先進国での貧困の指標。国民全員の手取りの所得を順番に並べて、真ん中にいる約6500万人目の所得が400万円だったとして、その半分の200万円以下にある人を貧困と定義する。この額は、OECD諸国の中でも日本は低位で、信じられないくらい貧困な国になっている。このような家庭は生活保護を使っているか。


 秋吉氏 車などの資産があると生活保護を受給できない。沖縄で車なしで子育てをするのは不可能に近い。ひとり親の約6割は支給されてもおかしくない状態だが受けているのは数%。生活保護バッシングもあり「生活保護だけは受けたくない」というシングルマザーもいる。制度に頼らず自力で耐えている。


 島村氏 沖縄は生活保護を受けられる基準額よりはるかに少ない額で暮らす人が国内でも断トツに多い。夜に働かなければ食べられず、子どもの面倒が見られなくなる女性もいる。母子家庭の生活は本当に厳しい。最近の支援事例を紹介してほしい。

 


しんぐるまざあずふぉーらむ沖縄の秋吉晴子代表

 秋吉氏 毎月1回、おしゃべり会を開き、お母さんたちの話を聞いている。来てくれる人たちは、苦しい中でも何とかしようと情報収集し、つながろうとしてくれる人が多い。コロナ禍では4月、初めての人から突然「ご飯お食べていない。食料をもらえませんか」とメッセージが来たことがあった。 大急ぎで買い物をして届けに行くと、小学生の子どもが2人いるがとてもきれいにしていて、困っているようには全く見えない。でも食べておらず、お弁当やお米を渡すととても喜んでくれた。お母さんたちは「ひとり親だから」と後ろ指を指されないよう一生懸命頑張っている。貧困は本当に見えない。支援側でさえ「こんなところに」と驚くことが多々あるほどだ。


 「離婚したから貧困になったんじゃないか」とも言われるが、女性がそもそも貧困だ。非正規雇用が圧倒的に多く賃金が低く、日本はシングル女性の貧困率が3割だ。そこに子どもが加われば貧困率はさらに上がる。就労の問題で女性が貧困になっている。


うるま市みどり町児童センターの山城康代館長

■お腹を空かせた子、行政につなぐ

 島村氏 沖縄では男性正社員も収入が低い。山城さんの現状認識は。
 

 山城康代氏 指定管理者として一般法人で児童館を運営している。うるま市内の3館と、学童クラブ、日本財団の「第3の居場所」も運営している。


 児童館と学童クラブは何が違うか。学童クラブは有料で帰宅までしっかり預かる場所。児童館は0~18歳まで誰でも無料で自由に遊びに来られる。さまざまな子どもが来る中で「お昼ご飯がない」という子、お昼に一度帰ったふりをして戻ってきて「お腹が空いた」と言い始める子どももいる。

 そんな中で5年前に子ども食堂と中高生の夜の居場所を始めた。子どもたちが自由に遊びに来る中で、食べていない子、お風呂に入っていない子、イベントの時に50円、100円を払えない子などが見えてくる。そのような時は行政につないだり、民生委員に自宅訪問してもらったりする。

 貧困世帯の子だけに食べさせると、周囲から「こいつは貧困だから」と注目される。すべての子どもを受け入れる中で、気になる子を行政などにつなぐのが児童館の役割だ。「沖縄にお腹を空かせる子なんているの?」と言われるが、実際にいる。子どもたちだから、見える。親が子どもに食事を用意できない背景には、精神疾患などさまざまな理由がある。

 学校が休みになると給食が止まり子どもの見守りもできない。土曜と夏休みに昼食を提供し、虐待はないか、ガスや水道が切られるようなことがないか見守り、行政につないでいる。

 島村氏 山城さんはうるま市の中でも多機能に活動している。児童館という誰もが来られる場をベースにしているのは大きい。もともとあったものを基本に、貧困世帯の子も含めて全員受け入れる。「貧困の子どもだけ」と線引きすると支援が難しくなる。大切なポイントだ。最近の事例は。


 山城氏 コロナ禍で子ども食堂を閉じることになったため児童館から食材を配布した。市の社会福祉協議会も配っていたが1家族1回限り。これを食べ尽くしてしまった家庭があり、回り回って児童館に連絡が来た。子どもが5~6人いる家庭で父の仕事が無くなり、母も赤ちゃんがいて働けない。食材を渡すと「これを食べてしまったらどうしたらいいか」と聞かれ「また電話して」と答えた。10日後に連絡があり、企業から寄付されたものを渡したが、その後もまた連絡があった。食べ物を求め歩く家族がいる。


 島村氏 各市町村での福祉活動を率先するのが社会福祉協議会だが、コロナ禍では緊急貸し付けの窓口になった。前年には数件だった申請が数千件もあり、パニックになった。支える仕組みがいる。お2人へ、これからしたいことや、力を借りたいことは。

 

■未婚の母支援、法律も変えられる

 秋吉氏 活動を始めて15年になるが、スタッフは自分が困ったことは他のお母さんたちも困っているだろうと、まずは自分の困りごとを解決しようと動いてきた。一番は議会への陳情。法律や条例が変わると社会が一気に変わり、恩恵を受けられる人が増えるからだ。


 ことし所得税法が変わったが、以前は未婚のひとり親は寡婦控除がなく、税金が高く福祉サービスも受けにくかった。沖縄には未婚のシングルマザーが多い。この大変さを解消しようと10年前から陳情を続けて全国にも広がり、とうとう法律を変えることができた。長年頑張れば変えることができる。


 企業には、CSR(企業の社会的責任)活動としてシングルマザーのキャリア支援を一緒にやろうと声を掛けてもらったことがあった。CSRも大事だが、まずは自分の会社のひとり親が働きやすく、子育てしやすい環境か見てほしいとお願いした。社内のひとり親の声を聞き、それを外にも広げてほしい。ひとり親が働きやすい環境は誰にとっても働きやすい環境だ。

 島村氏 自分たちの足元を見るのはとても大事。内部から苦情など出れば企業の信用はゼロになる。まずは自分のところで何ができるかを考えるのは今日のテーマでもある。


第3回SDGsプロジェクトの参加者たち=16日

 山城氏 子ども食堂への行政の支援は近々なくなる。大手食品メーカーや小売業などから食材を寄贈してもらい、市内の児童館6館に分配している。また郵便局にフードポストを置き、市民が入れてくれた食品を児童館から回収に行っている。コロナ禍では食料を必要とする人があまりにも多く、社協もフードバンクも食材が尽きたので、集まった食品は社協にも届けた。


 市内の人たちが「たくさん取れた」と野菜やバナナを持って来てくれる。出張先の北海道からトウモロコシを送ってくれた人もいた。地域からたくさんの支援をもらって「うちの子どもたちは幸せだよね」と言っている。強みは6館あること。もらったものを分け合い、うまく回っている。

 企業は食材を廃棄するのにお金がかかり「廃棄するよりもらってくれた方が安く済む」とも聞く。素人目線の妄想だが、そのお金を集めて会社を作り、配送できたらいいなと考えている。

 

■企業にできることがある

 島村氏 食べることは基本。これをシステムとして支えるのはとても大事だ。「おきなわこども未来ランチサポート」は県が主導して日本郵便が全県に宅配する仕組みを作った。全国でも先駆けたすごい仕組みだ。他にアイデアは。


 秋吉氏 コロナ禍ではたくさんの人から食品を寄付してもらった。しかし保管場所がなく、配る人手もない。どこか1カ所でまとめてやってくれたら本当にありがたい。また夏には企業から声を掛けてもらい、母子家族を北部のホテルに1泊2食付きで招待してもらった。希望した60世帯全員を招待してもらい、プールもあってとても喜ばれた。お母さんたちは自分がコロナにかかると子どもを見る人がいなくなる恐怖で家から出られず、仕事を休む人もいた。子どもの預け先を確保するのも大事だが、母子のメンタルをケアする支援はとてもありがたかった。

 島村氏 非日常を経験することも意味がある。貧困家庭はホテルに行ったりレストランで食事をしたりする機会がない。それが文化的貧困で、これを解消する機会を提供することで貢献できる。


 山城氏 貧困対策には福祉面と経済面がある。企業には経済を支えてほしい。食材配布では食品を置く場所と誰が運ぶかが課題だった。郵便局と貧困が結びつくとは思わず、郵便局に「こんなことができる」と言ってもらって初めて連携できると気付いた。私たちには企業の持ち味や強みが見えない。つながり、交流することでできることが見える。


 子どもたちが「将来こんな仕事がしたい」「こんな風になりたい」という夢や目標を持つのが大切だ。仕事のことや、どんな沖縄にしたいかという夢を子どもたちに語ってほしい。

 島村氏 自分が関わる居場所でも企業人に先生をしてもらっている。子どもたちの自己肯定感がとても低いので、「君にもできるよ」とこれを引き上げる話をするだけでだいぶ違う。企業の皆さんならできること。ぜひ実現していきたい。また最近は副業も盛んだ。働き方を工夫すれば子育てしながら副業できる可能性はあるか。


 秋吉氏 自宅でのテレワークも増えているが、子どもを見ながら仕事をするのは結構大変。いろいろな働き方があっていいが、長時間働けばその分、子どもとの時間は削られる。子どもが小学生の間は食事を作れる時間に仕事を終わり、宿題を見て、翌日の準備も手伝ってあげられるような就労環境を作ってほしい。企業には、フルタイムで働けば子どもを育てられる給与があるのか考えてほしい。各社に持ち味やできることがある。まず自社に目を向けるよう、今日の話を社内に持ち帰ってほしい。


 山城氏 子どもの現場にいる立場から、子どもの権利を守り、子どもが幸せになるようにという目線でいる。しかし子どもの家庭環境を良くするには、社会の在り方を考えざるを得ない。子どもの権利、子どもの最善を守ることを基本に、親たちの働き方や子どもが育つ環境を良くし、お腹をすかせたり生まれた環境で差別されたりすることのない社会を考えることは、沖縄を良くし世界を良くするSDGsにつながる。コロナ禍では全国の児童館の仲間がつながり「こんなことやっているよ」と伝え合い、乗り切れた。今日のこのような場で企業ともつながりができる。


 島村氏 今日の話を参考に、ワークショップではアイデアを出してほしい。

第1回カンファレンス報告から見る

 



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