〈57〉「良かった」を口癖に 癒やしの言葉で元気に


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 「最近良かったことは何ですか」。そう聞くと、大抵はちょっと考えて、「ありません」と言います。意外に皆さん、日々の生活の中での楽しかったことや喜びを心にとどめていないものです。重ねて聞くと、そう言えば、先月県外から孫が来て会えて良かった。でも、また会えなくなって寂しい。コロナは大丈夫だろうかと心配などと答える人もいます。このように多くの人が、良かったことはすぐに忘れ、「寂しい」「心配」とネガティブ(悲観的)な感情にとらわれてしまうのです。それはなぜでしょうか。

 ネガティブな感情は、病気・厄災から身を守る行動を取るために必要な原動力になります。不安があるから、自分だけでなく家族の健康や安全を守るためにも、心配して用心して暮らすのです。一方で、日々生活していくにはポジティブ(楽観的)な感情も必要です。「楽しいこと」「うれしいこと」「リラックスすること」も大切です。友達と会ってワクワクし、趣味に熱中して時間を忘れ、雄大な自然に触れて、日々の苦労から癒やされることも必要なのです。バランスが大切です。

 しかし現実は楽しいことばかりではありません。学校や仕事に出掛け、つらい作業をこなし、嫌な人とも応対しないといけません。家事も多く、日々疲れて睡眠も不足しがちです。コロナ自粛も疲れます。だから良いことなんか一つもないと思ってしまうのです。

 でもそうでしょうか。夜中に目が覚めて、朝まで眠れなかった人も、夜中3時までは眠れたので良かったと思えないでしょうか。学校や仕事に行くのが嫌でも、行ってみたら最後まで頑張れたので良かった。嫌な人から嫌みを言われたけど、同僚が慰めてくれて良かった。帰り道がすいていて良かった。最近食欲が落ちているけど、2キロやせたから良かった。コスモスが咲いて風に揺れてきれいで良かった―など。自分から良かったことを探していくと、結構見つかるものです。普通のことでもつらいことでも、「良かった」で味付けしてみると、ちょっぴり癒やされ、元気になるかも。

(長田清 長田クリニック 心療内科)