「消火を諦める者は誰もいなかった」 首里城火災、出動した消防隊員の証言


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燃えさかる炎を前に消火の指揮をとる消防士(高辻浩之撮影)

 首里城焼失から1年を前に、当日に消火作業を指揮した那覇市消防局中央消防署指揮隊長(当時)の上地晃さん(59)=現西消防署警備長=と西消防署救助隊長の照屋勝也さん(40)が27日、本紙の取材に応じた。緊迫した当時の様子や、沖縄の象徴の焼失を止められなかった悔しさを明かし、今後の防災に生かすことを誓った。

 首里城への出動指令が出た当初、情報量が少なかったため、上地さんは誤報の可能性も考えた。他部隊から徐々に入る報告。「うそだろ」と半ば願った。照屋さんが龍潭通り側から正殿を見ると、炎が上がっていた。冷静に努めるよう心掛け、「中に人がいるかもしれない」と施錠されていた城門の扉をチェーンソーで壊し、城内に急行した。

指揮隊長として現場で消火活動にあたった上地晃さんと救助隊長の照屋勝也さん=27日、那覇市消防局西消防署

 既に燃え盛る正殿の前に着くと、照屋さんは違和感を覚えた。これまで経験してきた火災現場には、人だかりで騒然とした雰囲気が多かったからだ。首里城の現場では無人で、静けさと熱気が混在した。「バチバチと燃える音だけが聞こえた。静寂で気味が悪かった」

 四方を建物に囲まれた御庭(うなー)は、熱気がたまりやすい状況だった。北殿や南殿などからは「シュー」という音が聞こえた。高温で木の水分が蒸発した音だ。「まだ火の手が上がってない背後からも、立っていられないほどの熱さを感じた」。防火服をまとっていたが、身の危険を感じた。消防隊員らはしゃがみ込み、熱気に耐えながら放水を続けた。

 「もしかしたら殉職するのではないか」。直接指示を出す立場にある上地さんと照屋さんは隊員らの安全確保のため、後方に下がるように指示した。一方、首里城周辺には住宅街もある。「もう少しここで踏ん張りたい」。延焼を食い止めたいと、引き下がらない隊員もいた。上地さんは「消火を諦めるのは誰もいなかった」と振り返った。

 照屋さんは「首里城を守れなかった。もう少しどうにかできなかったのか」と焼失から1年となる今も自問自答する。上地さんは「あれだけ水を注入したが、思うように消火できなかった。首里城の火災を経験し、さらなる消防力の向上に努めたい」と悔しさをにじませつつ、前を見据えた。

(長嶺晃太朗)