<感染者と呼ばれて3>実名報道への怒り、変化 「誰でも…」体験を公表


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 「うそだろ。なぜ実名なんだ」

  8月2日朝、知人から無料通信アプリLINE(ライン)を通じて送られてきた琉球新報の記事を読み、豊見城市議の川満玄治さん(45)は目を疑った。記事の見出しは「豊見城市議感染」とあり、川満さんが新型コロナウイルスに感染したと実名で書かれていた。

 前夜、琉球新報の記者から取材を受けた。思い当たる感染経路などの質問に答えたが、実名で掲載されるとは想像だにしなかった。

 記事に目を通した川満さんはすぐに記者に電話し、強く抗議した。「まるで犯罪者扱いだ」「子どもがいじめられたら責任を取るのか」。ありのまま怒りをぶつけた。

 本紙は、川満さんが選挙で選出された議員という「公人」であること、政治家として活動すること、数日前に市議会の臨時議会に出席し濃厚接触者がいる可能性があることなどを踏まえ、取材で得た事実を基に実名掲載に至った。県内の議員の感染情報を掲載するのは初めてだった。

 川満さんはその説明に納得できず「公人とはいえ、市町村議員は国会議員や首長とは違う。小さなコミュニティーで活動しているので、(実名の)影響は大きい」と異議を唱えた。

 8月5日、入院している病院で琉球新報から掛かってきた電話を通じ、家族が誹謗(ひぼう)中傷を受け、経営する居酒屋にも風評被害が及んでいると訴え、謝罪文を出すよう求めるなど抗議した。琉球新報も、あらためて掲載の理由と経緯を伝えた。9月になっても両者の主張は変わらなかった。

 川満さんは弁護士を通じ法的措置も検討した。一方、自身の感染経験を振り返る時間ができるうち、心境に変化も生まれていた。やがて、10月になると先島を視察していた自民の県議団の感染が相次ぎ、クラスター(感染者集団)と認定された。県議会事務局は感染者を実名で公表した。

 「誰でも感染する。いがみ合ってもしょうがない」。川満さんは取材に答える形で感染した当事者としての体験を率直に語り、どのような立場の人が感染した場合でも「感染した」と普通に言える社会づくりに力を注ごうと考えるようになったという。

 「ただ、実名報道については、今でもしてほしくなかった」。その気持ちは変わらないし、納得していない。

 川満さんの後に名護市や那覇市の議会議員に感染者が出ている。名護市議会は匿名、那覇市議会は実名で発表するなど、各議会の対応は分かれている。

 議員の感染について、琉球新報は原則実名報道とする一方、公務や周囲への影の有無などを踏まえて匿名としたこともあるなど、その都度判断する。

 全国的にコロナ感染が再び拡大中だ。感染経験を持つ人は増えているものの、差別や偏見を受ける事例は依然として残る。川満さんは言う。「感染者が誹謗中傷されず名乗り出られる社会へ、一人一人が問われている」 (照屋大哲)

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