国際
ウォール・ストリート・ジャーナル厳選記事

コロナ「震源地」武漢、封鎖から1年 くすぶる市民の怒り【WSJ厳選記事】


国際

「コロナ勝利」をテーマにした展覧会が開催されているが

By Trefor Moss
2021 年 1 月 25 日 12:30 JST 更新プレビュー


 【武漢(中国)】新型コロナウイルスの「震源地」となった武漢市では現在、コロナとの「戦いにおける決定的勝利」をテーマにした展覧会が開催されている。会場となった建物は流行のピーク時に臨時病院として使用された。

 しかし武漢で新型コロナが出現してから1年、勝利の誇示は不適切と感じる人は多い。市民の一部は、勝利を宣言するには早すぎる、大げさに喜ぶのは適当ではない、と考えている。混乱の中で大切な人を亡くした人を含め、政府がオープンな形で迅速に行動しなかったことに怒りを感じている

 昨年3月、孫春蘭副首相が、事態が鎮静化していることを示そうと封鎖中の武漢を訪問すると、人々から不満の声が浴びせられた。アパートの窓から「全部うそだ」と叫ぶ住民もいた。 住民の怒りは今もくすぶり続けており、危険があるにもかかわらず、あえて公然と政府を批判する人もいる。

 「非常に腹立たしい」。昨年2月に新型コロナで父親を亡くした武漢住民のチャン・ホンさんはそう話した。「私たちはこれまで政府を大いに信頼していた。政府はこうした問題に適切に対処して、私たちを危険にさらすことはないと思っていた」。しかし役人は当初、新型ウイルスの発生に立ち向かわず、隠そうとしたとチャンさんは言う。「政府への信頼に関してはこれまでよりはるかに疑い深くなった」

 全国的に見れば、共産党が揺るぎない支配を維持しており、むしろコロナ対応でその支配力は強化されている。コロナを制御できていない米国などとは異なり、中国では、76日にわたる武漢封鎖が4月に解除されたあとの感染者数は比較的少ない。当局は北京に近い河北省で新たなクラスターの封じ込めに取り組んでいるが、それでも同省で今月報告された感染者は約800人だった。

 にもかかわらず新型コロナの大流行という最悪の恐怖を経験した武漢の人々から当初、噴き出した怒りに当局は動揺しているようだ。初動への批判は検閲で取り締まられ、武漢の感染状況を報じた市民記者の張展氏は騒乱挑発罪に問われ、12月に懲役4年の判決を受けた。

 中国政府が公式発表している累計感染者数は8万8000人超で、その大半が武漢で感染した人たちだった。しかし武漢は圧倒的なスピードで回復している。今で以前と同じように高速道路は車で込み合い、レストランは満席で、公園では高齢者のカップルがダンスを踊っている。

 中国は昨年、主要国で唯一、プラス成長を確保した。輸出は過去最高を記録し、他の市場で苦戦している多くの西側諸国にとって中国事業はこれまで通り救いとなっている。ただし中国への出入国は今も厳しく制限されている。

 武漢市民の中には、こうした成功を祝うべきという意見もある。12月に話を聞いたところ、他国では感染がとまっておらず、中国政府の危機対応が正しかったことが証明されたと話した人もいた。

 「わが国の能力に誇りを持っている」と退職生活を送るフー・クアンダさん(70)は言う。規律と組織力、連帯感が武漢を新型コロナから救ったと感じているそうだ。何台ものバスで到着した児童や軍人、政府関係者――彼らの多くは共産党のバッジをつけていた――と並んで展示を見たあと、フーさんは「振り返ると胸がいっぱいになって涙が出る」と話した。

 会場には、医療従事者や、ささやかな人道的行為で武漢を支えた一般市民の英雄的行為を称える写真が並ぶ。しかしウイルスとの戦いで中国を勝利に導いたとして真っ先に称賛されていたのは、習近平国家主席だった。

 チャン・ホンさんは武漢の苦しみに名誉を見いだせない1人だ。武漢で新型コロナの流行が始まったころは健康だったという66歳の父親はかぜのような症状が出始めてから一週間後に入院し、数日後に亡くなった。

 「父親の死について毎日考える。いつまでも忘れられない」。小売業で働く36歳のチャンさんはそう話した。

 チャンさんと母親が見守る中、黄色の収納袋に収められた父親の遺体は防護服姿の医療スタッフによって病院の通用口から運び出され、霊きゅう車の後ろに投げ込まれた。車の中には既に8人ほどの遺体が積まれていた。

 通常なら3日以内に行われる葬儀も、2カ月後の封鎖解除までできなかった。別れのあいさつができる日を待ちながら、母親は毎日泣いたという。

 国営メディアが伝える勝利の物語によって、当局が新型コロナの発生当初に演じた致命的な失態が見えなくなっているとチャンさんは言う。

 父親の死因は医師からおそらく新型コロナだろうと言われたが、正式な診断は下されておらず、公式の死者数にも含まれていないという。

 当局は最近、5万340人と公式発表していた武漢の感染者数が実態を反映していないことを認めた。中国疾病対策予防センターによると、市民の4.43%に抗体が見つかっており、感染者は50万人前後に達していた可能性がある。

 シュ・タオさん(45)は武漢で新型コロナが流行していたとき、おばといとこを失い、当局が自分を守ってくれるとは思えなくなったと話す。感染は収まっているという政府の言葉を信用しておらず、今は自宅に引きこもり、ほとんど外出しないという。勤務先の国営の製鉄会社からは長期休暇を取っている。

 「政府がメディアで言うことは一言も信じていない」。昨年、孫副首相に向けられた抗議と同じ声がここでも聞かれた。「個人的には新型コロナの感染状況はまだ深刻化する可能性があると思っている」 とシュさんは言う。

 シュさんは役人が2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行から何も学んでいないのではないかと激しい怒りをあらわにした。SARSの感染者は中国を中心に8000人を超えたが、政府は隠蔽(いんぺい)しようとした。

 「役人はニュースをもみ消したり遮断したり、いろいろなことを隠したりして、今も(SARSの時と)全く同じように動いている」とシュさんは話した。

 しかし武漢で新型コロナが出現してから1年、勝利の誇示は不適切と感じる人は多い。市民の一部は、勝利を宣言するには早すぎる、大げさに喜ぶのは適当ではない、と考えている。混乱の中で大切な人を亡くした人を含め、政府がオープンな形で迅速に行動しなかったことに怒りを感じている。

 昨年3月、孫春蘭副首相が、事態が鎮静化していることを示そうと封鎖中の武漢を訪問すると、人々から不満の声が浴びせられた。アパートの窓から「全部うそだ」と叫ぶ住民もいた。 住民の怒りは今もくすぶり続けており、危険があるにもかかわらず、あえて公然と政府を批判する人もいる。

 「非常に腹立たしい」。昨年2月に新型コロナで父親を亡くした武漢住民のチャン・ホンさんはそう話した。「私たちはこれまで政府を大いに信頼していた。政府はこうした問題に適切に対処して、私たちを危険にさらすことはないと思っていた」。しかし役人は当初、新型ウイルスの発生に立ち向かわず、隠そうとしたとチャンさんは言う。「政府への信頼に関してはこれまでよりはるかに疑い深くなった」

 全国的に見れば、共産党が揺るぎない支配を維持しており、むしろコロナ対応でその支配力は強化されている。コロナを制御できていない米国などとは異なり、中国では、76日にわたる武漢封鎖が4月に解除されたあとの感染者数は比較的少ない。当局は北京に近い河北省で新たなクラスターの封じ込めに取り組んでいるが、それでも同省で今月報告された感染者は約800人だった。

 にもかかわらず新型コロナの大流行という最悪の恐怖を経験した武漢の人々から当初、噴き出した怒りに当局は動揺しているようだ。初動への批判は検閲で取り締まられ、武漢の感染状況を報じた市民記者の張展氏は騒乱挑発罪に問われ、12月に懲役4年の判決を受けた。

 中国政府が公式発表している累計感染者数は8万8000人超で、その大半が武漢で感染した人たちだった。しかし武漢は圧倒的なスピードで回復している。今で以前と同じように高速道路は車で込み合い、レストランは満席で、公園では高齢者のカップルがダンスを踊っている。

 中国は昨年、主要国で唯一、プラス成長を確保した。輸出は過去最高を記録し、他の市場で苦戦している多くの西側諸国にとって中国事業はこれまで通り救いとなっている。ただし中国への出入国は今も厳しく制限されている。

 武漢市民の中には、こうした成功を祝うべきという意見もある。12月に話を聞いたところ、他国では感染がとまっておらず、中国政府の危機対応が正しかったことが証明されたと話した人もいた。

 「わが国の能力に誇りを持っている」と退職生活を送るフー・クアンダさん(70)は言う。規律と組織力、連帯感が武漢を新型コロナから救ったと感じているそうだ。何台ものバスで到着した児童や軍人、政府関係者――彼らの多くは共産党のバッジをつけていた――と並んで展示を見たあと、フーさんは「振り返ると胸がいっぱいになって涙が出る」と話した。

 会場には、医療従事者や、ささやかな人道的行為で武漢を支えた一般市民の英雄的行為を称える写真が並ぶ。しかしウイルスとの戦いで中国を勝利に導いたとして真っ先に称賛されていたのは、習近平国家主席だった。




(c) 2021 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved Worldwide.


■ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)について
琉球新報デジタルサービスWSJ特設ページ-琉球新報WebNews購読会員なら追加料金なしに米最大の日刊経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)オンラインが購読できます

 


関連するニュース








  • お知らせ


  • 琉球新報デジタルサービス



  • 会員制サービス






  • 他のサービス