コロナ禍、子どもたちの環境を守るためにできることは? 記者など4氏が意見交換 沖大講座


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 沖縄大学地域研究所は1月23日、一般向けの土曜教養講座「コロナの影響から子どもをどう守るのか」(琉球新報社、沖縄タイムス社共催)をオンラインで開いた。コロナ禍の県民生活について両紙が行ったアンケート調査について両紙の記者が報告し、同大経法商学部の島袋隆志教授が県内企業の動向を説明した。これらを踏まえて、人文学部の山野良一教授がコーディネーターとなり、コロナ禍で子どもが育つ環境について4氏で意見を交わした。

 ◇コーディネーター
山野良一氏(人文学部福祉文化学科教授、地域研究所副所長)

 ◇登壇者
島袋隆志氏(経法商学部経法商学科教授、地域研究所副所長)
新垣綾子氏(沖縄タイムス学芸部くらし班記者)
黒田華記者(琉球新報社会部)

<パネルディスカッション>

「コロナの影響から子どもをどう守るのか」について意見を交わす出席者ら=1月23日、那覇市の沖縄大学アネックス共創館

山野氏 緊急時に対応するには普段からの余裕や遊びが必要だ。効率を求めて遊びを削った結果、コロナで対応できなくなったのではないか。
 

島袋氏 企業はボランティアでは動かない。人材確保のためにコロナ前から企業内託児所や学童クラブを整備していたところがあった。前もってやっていたことが、いざという時にも生きる。福利厚生は企業の在り方と反しない。

山野氏 休校時、家庭に居づらく学校以外に居場所がない子たちはしんどかっただろう。周囲が「コロナで大変」一色になる中、悩みを抑え込み、息抜きをするところがないのではないかと心配した。

山野良一氏

新垣氏 全国的にはDV相談が増えているが、沖縄では必ずしも増えていない。女性や若い人がつらい状況にあるにも関わらず相談が伸びないという報告もある。データに表れない存在を丁寧に見る必要がある。

黒田氏 コロナ禍で県が実施した子ども対象のLINE相談は、手が足りなくなるほど好評だった。感染防止で会えないからSNSを活用したのだが、今の子どもたちにはLINEが合っていた。コロナ禍でオンライン講座が増え、子育て中の母親などは参加しやすくなった。これらを今後も活用したい。

参加者 コロナで価値観などが変わった。前に戻らず、さらに進めるために何をするか。

島袋氏 AI対応や働き方改革などコロナ前から変化はあった。経営者だけでなく働く人も一緒にアイデアを出し、企業が足元から変わる必要がある。

黒田氏 賃金はすぐに上げられないが、意思決定をする人は今すぐ変えられる。SDGsにもあるジェンダー平等で、意思決定の場に女性を増やせば未来を見据えて今を変えていける。変えるチャンスだ。

新垣氏 企業の経営も厳しくなりリモートなど効率化が進んだ。いい変化を維持しながらコロナ禍で顕在化した苦しい存在に目を向けみんなで助け合っていくのが大事だ。


黒田華琉球新報記者 貧困の構造変革を

黒田華記者

 昨年2月末、突然の休校要請があり、仕事が休めない親は子どもの預け先に困り、子育て世帯への食料支援も各地で始まった。4月下旬には緊急事態宣言で多くの経済活動が止まった。

 琉球新報は5月頭に県民生活アンケートを行った。約2500件の回答が寄せられ、自由記述には「仕事がなくなった」「お金が底を突く」など経済的な厳しさ、「仕事中に子どもを預けられない」「子どもだけで留守番をさせている」「学力が心配」と休校に伴う問題、「混んでいて相談の予約も取れない」といった社会の混乱ぶりが率直につづられていた。

 コロナで約3割の人が所得が半分以下になり、1割は失業状態だった。宿泊・飲食などのサービス業、自営業や非正規雇用の人で影響が顕著だった。「食料を買えない」としたのは20~30代に多く、社会的弱者がより大きな打撃を受けていた。

 12月に同様の調査をすると同程度の厳しい状態が続いていた。ただ沖縄の貧困や産業構造の偏りはコロナ前からある。SDGs(持続可能な開発目標)は今までの延長線上ではない「変革」を求めている。コロナからの回復を、長く続く課題解決の機会にしたい。


新垣綾子沖縄タイムス記者 遊び環境整備必要

新垣綾子記者

 沖縄タイムス社は小1から高3の子どもと保護者を対象に5月の緊急事態宣言中にアンケートをした。多くの人が関心を持ってくれ大人と子どもの合計7000件以上の回答があった。

 その結果、4割以上の子どもが休校中の平日の日中を子どもだけで過ごしていた。休校中、小学生は友達との交流や遊びの制限にストレスを感じており、中学生は勉強の遅れ、高校生は進路や経済面に不安を感じる人が多かった。

 保護者の3割は収入が減っており「今後減る恐れがある」を含めると6割を超えた。経済活動の停滞と臨時休校の負担が子育て世帯を直撃していた。また収入の減少幅は低所得世帯ほど大きかった。取材すると、もともと苦しい家庭だけでなくコロナ前は「普通」の家族も経済的・精神的に追い詰められていた。

 その後、子どもの遊びについても取材した。1回目、2回目の緊急事態宣言中は公園も閉鎖された。幼児教育の識者はコロナ禍で「遊びが軽視されている」、感染症専門医は「公園だけ禁止するのは無意味」と指摘している。コロナ禍ではより小さい子どもに負担を強いてきた。状況に応じた環境整備が大切だ。


島袋隆志沖大教授 企業育て職を確保

島袋隆志沖大教授

 国も何とか地域を支えようと、企業や個人への給付金や助成金制度を適用し、県内の倒産件数は2020年は27件と少なかった。しかし業種によっては今後が厳しい。豚熱もあった第一次産業のほか、卸・小売業、飲食業、サービス業は今後の倒産リスクが高い。運輸・通信や建設はコロナの影響が少なく、業種による違いが大きい。

 経営課題には「売り上げの不振」を挙げるところが増えている。求人倍率も昨年4月に1倍を切った。夏以降に持ち直しが見られたが、全体的には1倍を下回っている。ただ、コロナ前から続く人材不足を課題に挙げる企業もある。大恐慌のように全業種が厳しいのではない。求人倍率は建設や保安、輸送などは昨年11月で1倍を超えていた。コロナ後を見据えて年齢構成のバランスを取るため採用を続ける企業も多い。

 子どもを守るために親世代ができることは職を確保し教育や暮らしの環境を守ること。SDGsなど社会的課題に取り組む企業も出始めた。就活中の学生はワークライフバランスを充実させている企業に注目する。これらの企業を育て、労働力単価を上げる工夫を県民全体でやらねばならない。