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2020年経済成長率がプラスだった台湾 感染対策と経済政策をどう両立?<変革沖縄経済>11


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台湾の感染症対策について話す台北駐日経済文化代表処那覇分処の范振國処長=4日、那覇市久茂地の台北駐日経済文化代表処那覇分処

written by中村優希

 2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の影響を受けた台湾は、当時の経験を新型コロナウイルスの危機管理に生かし、国内の経済活動は活発だ。2020年の経済成長率はプラスとなった。

 台湾でのSARS流行は03年3~6月の3カ月間。346人が感染し、37人が死亡した。新型コロナと比べて感染率は低いが致死率は高かった。SARSは新型コロナと同様にワクチンや治療薬がなく、台北駐日経済文化代表処那覇分処の范振國処長は「ウイルスへの対応方法が分からず、かなりのパニックになった」と当時を振り返る。

 台湾の経済活動も打撃を受けた。混乱の中、台湾政府はウイルス対策を統率する中央感染症指揮センターを立ち上げ、クラスター発生場所の徹底的な封じ込めや感染者の隔離など次々と施策を打ったが、国民の不安心理から国内は自粛ムードとなった。それまでプラス成長を続けていた台湾経済は、流行期間中に一気にマイナスとなった。

 期間中の観光客は前年同期比83・5%減となった。国内の移動についても自粛の動きが強くなり、消費は冷え込んだ。主な輸出先の中国でもSARS感染で経済が落ち込み、台湾の主要産業である製造業は大きな打撃を受けた。

 コロナ禍では、SARSで構築した対策を迅速に打ったことで経済への影響を抑えた。中国大陸で発生していた感染症の情報を台湾政府がつかんだのは、19年12月だった。SARS時の状況の再来に警戒感は高まり、翌20年の1月20日に司令塔となる中央感染症指揮センターを設置する。1月中に中国本土からの入国やクルーズ船の寄港を禁止するなど、早期に水際対策に動いた。

 台湾国内の情報発信は指揮センターに一本化し、感染者数や感染疑い者数、政府の施策などの情報を、毎日同時刻にテレビ番組で放送した。范処長は「正確で透明性のある迅速な情報発信は、国民を安心させることにつながる」と話す。

 感染者の感染経路はほぼ全て把握し、立ち寄った場所の消毒は徹底した。感染者が人気観光地の九份に立ち寄ったことが分かると、1日3回の全面消毒を実施した。

 感染疑い者や健康観察者は全員隔離した。自宅のほか、ホテルなどの宿泊施設を「防疫旅館」として確保し、病床逼迫(ひっぱく)を防いだ。SARS後から、緊急時に隔離施設として活用できるよう平時から施設に了解を得ているという。

 人口2300万人余の台湾で、新型コロナの感染者数は今月12日現在の累計で937人、死者は9人にとどまっている。范所長によると、早期に感染を抑え込んだことから外出規制をすることはなく、国内の経済活動は通常通り動いている。

 海外との渡航規制で影響を受ける観光業に対しては、国内旅行の喚起策を実施した。個人負担1千台湾元(約3600円)で3倍の3千元(約1万円)分の消費ができる「振興三倍券」を発行し、域内経済を活発化させた。

 また、SARS流行時は主要産業である製造業の競争力が弱かったが、ここ20年で半導体やICチップなど高付加価値製品の製造に力を入れてきた。コロナ禍の観光客減少で旅行業は影響を受けたものの、製造業の輸出需要は落ちず、結果的に台湾の経済成長はプラスとなった。

 范処長は「台湾の対策は一見すると厳しく見えるかもしれないが、徹底的にやることで国民は安心できる。不安だと外出して消費しなくなる。一時的に自由が犠牲になるかもしれないが、自分の安全にも関わるので国民も理解している」と話した。

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