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ノババックスのワクチン承認目前、逆転勝利なるか【WSJ厳選記事】


ライフ

承認されれば競合他社のワクチンよりも利点が多い可能性

By Gregory Zuckerman and Peter Loftus
2021 年 2 月 24 日 11:18 JST 更新プレビュー


スパイクタンパク質を分離する機械を操作するノババックスの社員 Photographs by T.J. Kirkpatrick for The Wall Street Journal


 昨年1月、米ノババックスの社員は地元のバーに集まり、今後の身の振り方を話し合っていた。この小さなバイオ医薬品会社は創業から33年を経ても、ワクチン開発で承認にこぎ着けたことがまだ一度もなかった。手元資金でしのげるのはせいぜい半年ほど。株価は4ドルを割り込み、時価総額も1億2700万ドル(約133億円)に減少した。

 そのノババックスの視界に、新型コロナウイルスワクチンの承認がはっきりと入ってきた。承認されれば、パンデミック(世界的な大流行)との闘いで強力な武器となり、競合他社のワクチンよりも利点がおそらく大きいと科学者は考えている。初期段階のデータでは、同社のワクチンが無症状のコロナ感染を抑制し、しかも予防効果が長期にわたり持続する可能性が示された。これは業界でも初の部類に入る。

 ワクチンが承認されても、ノババックスはこれを大量に生産・配布するという課題に直面する。同社は2019年、何とか手元資金を確保しようと、一部の製造設備を売却した。

 向こう数カ月以内にも承認されるとの期待から、株価は今年に入り106%値上がりしている。時価総額は154億ドルと、イスラエルの後発薬大手テバファーマスーティカル・インダストリーズなど、数十億ドルの年間売上高を稼ぎ出す製薬大手を上回る水準に膨らんでいる。

 ノババックスが今年1月28日に公表した英国の第3相試験(フェーズ 3)データの暫定分析では、89%の効果が示された。英国では変異ウイルスによる感染が広がっている。一方、同様に変異株が流行している南アフリカの中期治験では、効果が49%にとどまった。ただ、エイズウイルス(HIV)検査で陰性の被験者の間では効果は60%に上った。

 ノババックスは他社と同様、変異ウイルスへの予防効果を上げるためワクチンに調整を加えている。

 ノババックスのワクチンが承認されれば、コロナが製薬業界の勢力図をいかに一変させたか、改めて印象づけることになりそうだ。有力ワクチンの大半は、まだ効果が証明されていない新技術を駆使して新興メーカーが開発した。ワクチン大手の米メルクは先頃、さえない治験結果を受けてコロナワクチンの開発を打ち切った一方、米モデルナや独ビオンテックなど新興勢は早期の開発にこぎ着け、すでに世界で接種が始まっている。

 ニューヨークのコーネル大学医学部の免疫学者、ジョン・ムーア氏はノババックスのワクチンは「他のどのワクチンにも劣らず強力で、持続性では著しく勝るかもしれない」と話す。ムーア氏は当初、ノババックスのワクチンに懐疑的だったが、昨年公表された初期データから有望だとの見方に変わり、自ら被験者として治験に参加したという。株式も一部取得したが、その後売却したとしている。


ノババックスのコロナワクチン PHOTO: T.J. KIRKPATRICK FOR THE WALL STREET JOURNAL


 ノババックスの成功は多くの要因に左右されそうだ。米ファイザー・独ビオンテック連合、米モデルナ、英アストラゼネカが開発したワクチンの配布は想定ペースを下回っている。いずれも巨大な需要になかなか追いつくことができない。ノババックスは4月頃から向こう1年間に数十億回分のワクチン生産が可能だとしている。同社は先週、発展途上国の予防接種普及を目指す国際組織「GAVIアライアンス」(本部ジュネーブ)と、世界で11億回分のワクチンを生産することで合意したと発表した。

 ファイザーやモデルナのワクチンとは異なり、ノババックスのワクチンは超冷温で保存する必要がない。これは冷凍施設を持たない病院や診療所、薬局にとっては利点だ。

 ノババックスは独自の方法を開発したが、シングルズ(帯状疱疹)やB型肝炎向けの承認済みワクチンと似たアプローチを踏襲しており、一部の科学者の間で支持される理由の1つとなっている。

 ファイザーとモデルナのワクチンは「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれる新技術を使って遺伝情報を伝達し、コロナのスパイクタンパク質を体内で生成。免疫反応を引き出す仕組みとなっている。

 欧州と英国で使用が承認されているアストラゼネカのワクチンは異なる技術を使い、無害なチンパンジーのウイルスを使って似たような指示を体内に送り込む。

 ノババックスのワクチンは、体内で生成するのではなく、やや修正を加えた合成のスパイクタンパク質を体内に注入する。同社の科学者はまず「バキュロウイルス」と呼ばれる昆虫ウイルスにスパイクタンパク質を生成するための遺伝情報を注入する。次にそのバキュロウイルスを使って、元々はアワヨトウというガの幼虫から作られた細胞を感染させる。


ワクチン生産に取り組むノババックスの社員(11日)PHOTO: T.J. KIRKPATRICK FOR THE WALL STREET JOURNAL


 細胞は最大6000リットルの液体を収容する大型の生物反応器で培養され、そこでスパイクタンパク質が生成される。スパイクタンパク質は分離・純化された後、免疫反応をうまく引き出し予防効果を高める「アジュバント」と呼ばれる補助剤と共に、ワクチンとして体内に注入される。

 これまで紆余曲折だったノババックスの歴史は、同社の取り組みに影を落とす。16年前、「ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)」と呼ばれる更年期障害の症状を緩和する主力製品のクリームは全く売れず、一時は破たんの危機に瀕(ひん)した。

 その後はHIV、重症急性呼吸器症候群(SARS)、豚インフルエンザ、エボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)などのワクチン開発を手掛けたが、後期試験で良好な結果が得られない、または疫病が収まりワクチンの必要性が低下するなどの理由で、いずれも成功には至らなかった。 

 2020年初め、同社はインフルエンザ向けのワクチンで後期試験を行っていた。

 初期データは極めて良好だったが、従業員は手元資金の枯渇を懸念していた。スタッフに離職の動きも出ており、スタンレー・アーク最高経営責任者(CEO)はこれが同社にとって最後のチャンスだと分かっていた。

 コロナ感染が拡大すると、同社幹部はインフルエンザワクチンの開発遅延というリスクを冒しながら、コロナワクチンの開発にかじを切るという難しい決断を下した。

 ノババックスは昨年1月、スパイクタンパク質の遺伝子をなんとか入手すると、バキュロウイルスの手法を使って治験用のワクチンを製造した。だが、大量生産する資金が枯渇していた。

 アーク氏は昨年3月、他の製薬会社幹部とともにホワイトハウスで開催されたコロナワクチンに関する会合に出席。「正直申し上げて資金が必要です」。ドナルド・トランプ前大統領にこう窮状を訴えた。

 こうしてノババックスは、コロナワクチンの早期開発を目指す米政府の取り組み「オペレーション・ワープ・スピード」や非営利団体などから約20億ドルを確保。大手ヘッジファンドなどからも資金を調達した。

 連邦の資金援助を受けたコロナワクチン治験を手伝ったフレッドハッチンソンがん研究センターの感染症専門家、ラリー・コーリー氏は、ノババックスのワクチンは複数の点で優位につく可能性があると指摘する。具体的には、1回の投与量が比較的少なくて済むため、大量生産がしやすく、供給範囲も広がることなどが挙げられるという。「世界で普及しやすく、潜在性は極めて高い」

 サンフォード・C・バーンスタインのアナリストは、ワクチンが承認されれば、今年の売上高は50億ドルに上る可能性があると分析している。だが、後期試験で失敗することが多いことを痛いほど認識しているノババックス幹部にまだ勝利の祝杯を挙げる準備はできていない。

 また、ノババックスの発行済み株式に占める空売り残高の割合は10%近くに達しており、根強い懐疑論を反映している。これに対し、S&P500種指数構成銘柄の空売りの割合は平均で2.5%だ。

 米国での大規模な治験結果は3月下旬に入手できる見通し。アーク氏は心配だが、楽観していると話す。




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