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官僚と接待 交際自粛は政策に悪影響 <佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 複数の総務省幹部が、菅義偉首相の長男が勤務する放送事業会社「東北新社」から接待されていた事案が深刻な政治問題になる。それに加え複数の総務省幹部がNTTグループから接待を受けているという事実も明らかになった。国家公務員倫理法に抵触するおそれのある深刻な問題だ。

 筆者は外務官僚だった。外交団、国会議員、マスコミ関係者、学者、商社関係との会食は頻繁にあった。もっとも筆者が勤務していた国際情報局は、入札などの業務がほとんどなかったので、利害関係者に該当する人との接触はなかった。また筆者は外務省報償費(いわゆる機密費)を使える立場にいたので、会食は外務省の予算で処理していた。その方が相手に「貸し」を作ることができ、情報屋としての仕事が進めやすくなるからだった。学者や商社員から5千円以上の接待を受けたときは贈与等報告書を倫理監督官に提出した。

 ところで、人事院が利害関係者に該当しないと明言している職種がある。人事院が発行する「国家公務員倫理規程質疑応答集」にこう記されている。

 〈問3 政治家は利害関係者に該当するのか。/答 政治家は、通常は倫理規程第2条第1項各号のいずれにも該当しないので、利害関係者に該当しない〉。

 国家公務員が政治家に誘われ宴席に出席すると先方に民間の同席者がいる例はよくある。官僚の方からすると招待した政治家が支払うと認識しているので、国家公務員倫理法上は利害関係者に当たらないので法的にセーフになるというのが今までの運用だった。それが農水省の事案で変化した。

 〈農林水産省は25日、鶏卵を巡る贈収賄事件で在宅起訴された鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの秋田善祺元代表から会食の接待を受けたとして枝元真徹事務次官(59)ら3人を減給10分の1(1カ月)、3人を戒告や訓告とし、計6人を処分したと発表した。国家公務員倫理法に基づく倫理規程に違反したと判断した。野上浩太郎農相は閣僚給与1カ月分を自主返納する。/会食には菅義偉首相に近く、収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相が参加〉(2月25日、本紙電子版)。

 特に水田正和生産局長の事案が興味深い。〈水田氏は19年9月に接待を受けた。同氏は「会食費は吉川氏が負担すると聞いていた」と述べた。倫理規程に違反しないと思っていたと説明し「誰が払ったか確認すべきだった」と釈明した。〉(3月1日「日本経済新聞」電子版)。

 要するに水田氏は「支払いはどなたがなさるのですか」と明示的に尋ねたのに対して、吉川元農相が「私が払う」と言ったので、国家公務員倫理法上の問題はないと考え、会食したが、実際は水田氏の知らないところで民間業者が払っていたということだ。これで処分されるのは理不尽と思う。

 官僚と業者の間で行われた総務官僚に対する接待と、政治家の会食に呼ばれたら業者が同席していたという農水官僚に対する接待は、明らかに質の異なる問題だ。今後、霞が関の官僚は、自分が勤める省府の上司である大臣、副大臣、政務官から会食に誘われても、民間人の同席者がいると、何に巻き込まれるかわからないので、食事の席を蹴って帰るのが安全策ということになる。

 官僚が政治家や民間人との接触を自粛することによって、多面的な情報が官僚に入らなくなり、政策策定に悪影響を与えることが懸念される。農水官僚たたきが結果として国民に不利益をもたらすことを筆者は懸念する。

(作家・元外務省主任分析官)