共生社会へ少しずつ 仲村伊織さん県立高校合格 問題投げ掛けた4年の挑戦


社会
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4度目の挑戦での高校合格を喜ぶ(左から)仲村伊織さん、父・晃さん、母・美和さん=10日、北中城村島袋

 重度知的障がいのある仲村伊織さん(18)=北中城村=が県立真和志高校「ゆい教室」に合格した。「大きい学校(高校)、行く」と宣言し、県立高校の入試を受けたのは2018年3月。重度知的障がいのある生徒として、県内初の挑戦だった。以後、4年にわたる伊織さんの挑戦は「障がい者への合理的配慮」や「定員内不合格」など、さまざまな問題を社会に投げ掛けた。

合理的配慮や定員内不合格 問題投げ掛けた4年

 「視覚障がい者に点字、身体障がい者に車いすがあるように、知的障がい者には知識の支えが必要」。伊織さんの両親は、学力テストで点数が取れないという特性を理解した上での、合理的配慮を求め続けた。「県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例(共生社会条例)」に基づく調整委員会は、「県教委の対応は不十分だった」として障がいの特性に応じた配慮を求めた。初年度は不十分だったが、支援員の配置など年を重ねるごとに合理的配慮が進んだ。

 伊織さんは「定員内不合格」も経験した。合格発表の場で、母親の美和さん(52)は「やっぱり、ないな」と苦笑いでつぶやく生徒を見たことがある。強がって不合格の悲しみを見せないのだと感じたという。「伊織以外にも苦しむ子は多いのではないか」と考え、定員内不合格の問題を社会に訴えた。

 問題は国会でも取り上げられ、県外の15都道府県は原則、定員内不合格が出ないことが判明した。県教委は入試制度を変えていないが、できるだけ定員内不合格を出さないよう、高校に求めた。昨年度、県内の定員内不合格は過去最少の53人になった。

 重度知的障がい者の高校進学について、県教委は当初「学びの保障ができない」という考えだった。しかし、伊織さんの両親や支持者との交渉の末、考えを撤回。21年度からは、中重度の知的障がい生徒を対象とした「ゆい教室」を、真和志高校に設けることを決めた。学籍が特別支援学校という課題は残るが、全国的に見ても先進的な取り組みだ。美和さんは「衝突もあったが、向き合ってくれた」と県教委に感謝した。

 伊織さんは4月から真和志高校に通う。父親の晃さん(54)は、高校進学を喜びつつ、その先も見据える。「高校は通過点で、生きるのは社会。私がいなくなっても伊織が生きていけるよう、共生社会をつくりたい」

  (稲福政俊)