基地問題解決へ国際比較 9カ国の事例を分析し道筋探る 東工大川名氏ら共同研究


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オンラインで報告会を重ね、基地問題の国際比較に取り組んだ研究者ら。その成果を今年1月に刊行された著書にまとめた

 沖縄の米軍基地問題について、国際比較を通じ解決の道筋を探る共同研究が出始めている。東京工業大学の川名晋史准教授(41)らは今年1月刊行の著書「基地問題の国際比較 『沖縄』の相対化」(明石書店)で、日本を含む9カ国について、米軍基地の存在が問題化する要因やその対処方法などを分析した。長きにわたる沖縄の問題を解決する“特効薬”はすぐには見つからないものの、学問的な範囲にとどまらず、解決の処方箋として政策的な論点を提示している。

 米国は世界各地に基地網を張り巡らせているが、そこから派生する問題を国際的に比較、分析する研究は「驚くほど少ない」(川名氏)という。米側の1次資料が限られる上、米軍を受け入れる国・地域ごとの言語や文化、政治制度などに研究者が精通している必要があるためだ。

 共同研究には川名氏を含め、30代半ばから40代半ばの若手10人が参加。専門とするトルコ、サウジアラビア、韓国、ドイツ、イタリア、スペイン、デンマーク(グリーンランド)、シンガポール、日本(岩国基地)の9カ国を取り上げた。「基地問題」と聞いてなじみのない国もあるが、示唆に富む事例は多い。

 その一つが、デンマークのグリーンランドだ。かつて米軍基地の建設時に先住民が強制移住させられ、核兵器を積んだB52爆撃機が墜落するなどの歴史経験を持つ。特に冷戦終結後、グリーンランド自治政府も対米交渉に関与できるようデンマーク政府に明確に働き掛けるようになった。

 これに対し、デンマーク政府は2004年に署名した米国との国際協定にグリーンランド自治政府を加え、3者が同等の立場で議論する協議体を設置。グリーンランド側の言動を抑え込むのではなく、要求に応じる形で権限を拡大させる政策を採用した。日本政府と沖縄の関係に置き換えてみると違いが浮かび上がる。県の玉城デニー知事が日米両政府に沖縄を加えた3者協議の場「SACWO(サコワ)」の設置を訴え続けているものの、日本政府は安全保障が国の専管事項であるとの考えを強くにじませ、応じる気配はない。

 グリーンランドに詳しい北海学園大学の高橋美野梨准教授(38)は、国家レベルより下位の地域を交えた3者協議の場の設置について「基地の安定的運用に支障を来すリスクを背負うが、決定の民主的正当性も同時に高まる。基地問題の政治化を抑制する効果を生む環境が醸成され得る」と指摘する。

 県出身で元県地域安全政策課研究員の波照間陽氏(35)はスペインの事例を考察した。スペイン政府がマドリードに近い米軍トレホン基地の返還を強く求めた1980年代後半、米国はNATO(北大西洋条約機構)という多国間の枠組みを利用し、基地機能を加盟国のイタリアに移転することで収拾を図った。「日米も多国間協議の場を疑似的にでもつくり上げられれば、沖縄の問題解決の一助になるのではないか」(波照間氏)

 「支配と従属」という単純な関係に陥りやすい2国間ではなく、第3者が加わったり多国間協議の場を設置したりすることで柔軟性が生まれ、沖縄の基地問題に向き合う日本の交渉上の立場も改善し得る―。それが共同研究が導く結論の一つだ。

 ただ、現状では日本を含むアジアで多国間安全保障が形成される機運がみられるわけではない。川名氏は「対米関係が2国間に閉じていることの弊害はあり、その面での政策志向の研究はもっとあっていい。比較事例を増やすことで、さらにクリアな主張が開ける可能性はある」と展望した。

(當山幸都)