世界自然遺産への登録が確実となった「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」。今後、政府には対象地域の自然環境を適切に保護管理する義務が生じるが、沖縄島北部「やんばる」の近隣には日本の主権が及ばない米軍北部訓練場が横たわる。北部東海岸の名護市辺野古の海域では新たな基地建設が進められている。登録後も環境保全の担保には、課題が山積する。
2016年、北部訓練場の過半が返還された。ヘリコプター発着帯(ヘリパッド)の新設が前提条件だった。17年には米軍大型ヘリが東村高江の民間牧草地に不時着・炎上するなど、危険と隣り合わせの状況は今も変わっていない。
米軍機の離着陸が環境に与える影響も懸念される。日本政府は新たなヘリパッドを集落を囲むように建設した。工事期間中、沖縄防衛局はノグチゲラなど野鳥の営巣期となる3~6月は重機を使った作業を中断した。だが、運用開始以降、米軍は季節や昼夜を問わず訓練を繰り返し、騒音や振動を引き起こす。辺野古新基地が建設されれば、北部訓練場や伊江島補助飛行場など、海兵隊機による米軍施設間の往来が今以上に増えることも懸念される。
返還地では、放射性物質を含む電子部品や砲弾の薬きょうなど廃棄物が次々と見つかり、汚染除去の不十分さも露呈した。過去には米退役軍人省が枯れ葉剤使用を認定している。米軍の演習や基地内工事で赤土が流出することもあった。有害物質が残留する懸念も強く、識者らは米軍による使用履歴の開示は必須だと指摘している。
桜井国俊沖縄大名誉教授は「海と森と川が連なり、一連の自然環境を織りなす。今回の推薦地も米軍基地によって分断されている構図は変わらない」と断言する。一方、登録を機に一帯の保全は「日本のみならず国際的な責務」になると指摘する。その上で、「政府は土地の汚染や騒音問題など米軍を巻き込み、実効性ある共同管理が構築できるよう強く働き掛けるべき」だと訴えた。
(当銘千絵、明真南斗)