【深掘り】前宮古島市長収賄 背景に保守系重用か 政権、オール沖縄に対抗


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宮古島市長選で下地敏彦候補(左)の応援に駆け付けた自民党の小野寺五典組織運動本部長=1月、宮古島市平良

 宮古島市への陸上自衛隊駐屯地の配備候補地選定で便宜を図ったとして、同市の下地敏彦前市長らが逮捕された贈収賄事件。候補地選考過程に問題はなかったというのが防衛省の公式見解だが、住民の抵抗感が根強い陸自配備に理解を示す地元首長の意向に「配慮」した側面も色濃く残る。名護市辺野古の新基地建設を巡る県との対立に絡んだ、政権による保守系首長の重用も、事件の素地を作った側面がある。

 岸信夫防衛相は14日の会見で駐屯地建設地の選定について前市長の働き掛けの影響を否定した。だが、関係者らの語り口からは異なる実態が浮かび上がる。

 ■「下手」の構図

 防衛省が自衛隊の宮古島配備を正式に打診した2015年当時、配備候補地は、前市長が業者から収賄を受けたとされる宮古島市上野野原の「千代田カントリークラブ(CC)」と、島北東部に位置する「大福牧場」の2カ所だった。

 防衛省政務三役として候補地の検討に携わった1人は「省としては大福牧場が第一候補だった。千代田は前市長がしつこく言ってきた場所だ」と語る。

 調整段階では大福牧場を中心に活用し、千代田CCに隊舎などを整備する構想だった。その後、大福牧場で地下水脈の問題が浮上。前市長は市民の懸念に押される形で、大福牧場への配備反対を表明。防衛省は駐屯地を千代田CCに整備することを決めた。

 背景には、県内で自衛隊配備に根強い反対の声がある中、配備に理解を示す首長に下手に出ざるを得ない構図がある。自衛隊関係者は「建設を受け入れてくれるだけでもありがたい。嫌とは言えない」と語った。

 一方、防衛省幹部は、航空基地やレーダーサイトと違って陸自駐屯地は立地条件の縛りが緩いと指摘。前市長が「(配備にあたり)懐のことだけを考えたのか、防衛と自身の懐の両方を考えたのかは分からない」とした上で「防衛のために必要な場所を取得できた」と満足げに語った。

 ■選挙への“介入”

 陸自配備計画が争点となった17年1月の市長選。人口5万人ほどの市に、当時の安倍政権は郵政や農政分野に強い県外の国会議員を投入するなど、下地氏を全面支援した。同様に陸自配備計画が争点となった18年3月の石垣市長選でも延べ60人ほどの国会議員が応援に入るなど、政権は県内各地の市長選に“介入”してきた。

 当該地域で計画される軍事施設建設の進展を狙うだけでなく、勢力争いもある。政権と対立する「オール沖縄」の知事が続く中、県内11市の市長会長の座を、保守系市長で維持したいとの思惑だ。翁長雄志前知事誕生以降、保守系市長でつくる「チーム沖縄」メンバーが市長会で過半数を占め、会長職も押さえる。自民党関係者は「市長会長まで『辺野古反対』で行動されると、対外的なインパクトが強い」と解説する。1月の宮古島市長選にも菅義偉首相の秘書らが入り「チーム沖縄」の会長だった前市長を応援した。

 今回の逮捕を受け、米軍や自衛隊の新たな施設整備を巡る「利権」構造に、有権者の厳しい目が注がれることになる。

 防衛省関係者は「もう造ってしまっている宮古の配備は変えようがない」と高をくくる一方、石垣市で工事が進む陸自配備への飛び火を懸念する。配備に反対する石垣市の議員は「住民投票も実施されず反対運動も下火になっていたが、再度火が着きそうだ」と意気込んだ。(知念征尚、大嶺雅俊、明真南斗)