イスラエル・ガザ停戦 イラン介入は米戦略に影響大<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 10日、パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム教スンナ派武装組織のハマスがイスラエルをロケット弾で攻撃したことによって始まった戦闘は、同21日午前2時(日本時間同午前8時)、停戦に入った。米紙「ウオールストリート・ジャーナル」(WSJ)は、21日の社説で以下の見方を示している。

 <今回の停戦は無条件の停戦であり、ハマス、イスラエルのどちらも戦略的勝利を手にすることができなかった。イスラエル側は、トンネル網を破壊し多くの軍事指導者を殺害するなど、ハマスに打撃を与えたと主張している。イスラエルの消滅を望んでいるハマスは、イスラエルに新たな大規模攻撃をしかける能力を、当面失ったかもしれない。/イスラエル側の死傷者数は、ミサイル防衛システム「アイアンドーム」のおかげでずっと少なかった。それでもハマスは、イスラエルのアラブ人とユダヤ人の間で人種にからむ暴動を起こせることを示し、イスラエルの民主主義に打撃を与えた。イスラエルのアラブ人とユダヤ人は今回の衝突の間、どちらも暴動を起こしていた。近年、イスラエルの民主主義でアラブ系の政党が躍進していただけに、これは悲劇だと言える。>(5月21日WSJ社説)。

 今回の戦闘の間、筆者はテルアビブに住むモサド(イスラエル諜報特務庁)の元幹部と何度か連絡を取った。元幹部はガザからのハマスと「イスラム聖戦」(イランに支援されたイスラム教シーア派過激組織)よりも、イスラエル国内でのユダヤ人とアラブ人の衝突を懸念していた。「イスラエル国内でユダヤ人とアラブ人が激しく衝突するような出来事は、1948年の独立戦争(第1次中東戦争)以来のことだ。重苦しい雰囲気だ」と述べていた。

 停戦後、イスラエルでは国内のユダヤ人、アラブ人双方で過激な行動を取る人を抑え込むことが政府にとって重要な課題となる。しかし、いったん悪化した民族対立を沈静化させることは至難の業だ。パレスチナ側は、この機会を利用して、イスラエル国内のアラブ人との民族的連帯を強調するであろう。

 さらにイランがパレスチナ問題への関与を強めている。24日にハマスと「イスラム聖戦」(イスラム教シーア派武装組織)に対して直接メッセージを送った。

 <イラン・イスラム革命最高指導者のハーメネイー師が、パレスチナイスラム抵抗運動・ハマスのハニヤ政治局長やイスラム聖戦運動のナハレ事務局長の書簡に返答し、「我々の心は、あなた方の戦いの場にあなた方とともにいる。あなた方は最終的勝利を目にするだろう」としています。/最高指導者事務所の広報サイトKhamenei.irによりますと、ハーメネイー師は24日月曜、ハニヤ氏やナハレ氏からの個別書簡への返答として、パレスチナの占領者との戦いは、圧制や不信心、覇権への対抗であるとし、「我々の心は、あなた方の戦う場所であなた方とともにおられ、常に、あなた方の勝利は継続されるよう祈祷(きとう)する所存である」と語りました。>(24日「ParsToday」日本語版)。

 米国のバイデン政権は、トランプ前政権の対イラン強硬路線から転換を図っている。イランはこれを米国の弱さを示すものと見て、徹底的に利用することにしたようだ。パレスチナ問題に与えるイランの影響力が今後、強まるであろう。米国は、中東への対応に忙殺される。米国としては、中東と中国の二正面作戦は避けたいので、中国とは対立回避に動くと思う。米中対立の激化による沖縄の安全保障環境悪化は避けられそうだ。 

(作家・元外務省主任分析官)